――競争のなかで勝てなかったアイドルの「悔しい!」って描写や、嫉妬がしっかり描かれていますが、そこに自分を投影してる部分はありますか?
高木:かなりありますね。私は天才肌なタイプじゃないので、頑張っても頑張っても報われない事態に何度か直面していて。社会に出ると努力しても結果を出さないと褒めてもらえないじゃないですか。
だからこそ結果までの過程を描きたいんです。最終的に悲しい結果に終わったとしても、頑張ってる人の頑張ってる描写は省きたくないですね。それに、アイドルってキラキラしてるから愛されてる訳じゃないと思うんです。もちろんキラキラした部分が最後にくるからこそカッコいいと思うのですが、その過程がないとこんなに熱狂的に愛されないんだろうなって、好きになってからすごく痛感しました。
その過程の部分ってコンテンツに入り込んで深く見ないと知れない部分なんですけど、誰でも共感できる努力だと思うんです。だからそこを描くことで、知ってもらいたいなと。
――作中に出てくる「イケメンって物理じゃなくて概念だから。」って台詞に通じる部分なのかなと思います。
高木:はい、そのセリフは、姿形がカッコいい人が必ずしも一番人気ではないって話を編集さんにつらつらしていた時に、「そのことをもっと具体的に一言で表すセリフはない?」って言われてひねり出したんです(笑)。
私がカッコいいって応援する人を、周りの友達がカッコいいと思ってくれないって結構あって……! その人がどこがカッコいいのか説明する時に、「カッコいいに具体的な形はないよなあ。カッコいいって難しいな。」って思いました。
イケメンって、存在ではなくて「念」……ファンの「思考」から生まれるものなのかなとか。その「念」がステージ上でキラキラするまでの過程の姿から生まれている部分はあると思い ます。
――『ドルメンX』のリアリティは、高木さんが実際に感じた生の感情が沢山含まれているからこそなのですね。
高木:そうですね。あと、実際に俳優さんやアイドルファン、現場の方に取材させていただいていて、それがすごく勉強になっています。『ドルメンX』は他の2次元のアイドルモノのアニメや漫画を参考にしたりすることはなくて、全部生身の人の話を漫画に落とし込んでいるんです。
『JUNON』のスーパーボーイ・コンテストをオマージュして描いた話の時は、実際にコンテストを仕切っている副編集長にお話をうかがったり、現場を取材させていただきました。漫画家も賞とかあるので、あの話での競り合いの感情は、漫画家の賞に置き換えて考えたり……。
俳優さんや女優さんって、苦労の話をうまくヘラッと話すんですけど、目や表情がいろんなことを語っていることがあって。そういう部分も上手くキャラクターに落とし込めればいいなと思います。
先日発売された『ドルメン X』3巻を描く際には、劇中劇のモデルになっている“テニミュ”に出られている俳優さんに、実際にリアルタイムでお話を伺いました。“テニミュ”って合宿 があるんですが、合宿に行く前にお話を聞いて、帰って来てからもすぐお話を聞いて。密着ってほどではないんですが、じっくりその時々の感情をうかがいました。合宿を終えて、本番が近づくにつれて俳優さんの顔つきや発言がどんどん頼もしくなっていくのがとても印象的でした。
元キャストの方にお話を伺ったことはあったのですが、みなさん「あの頃は若かった」みたいなお話になってしまうんですよね(笑)。現キャストにリアルタイムでお話を伺えたのは大きかったです。
――3巻拝見しましたが、合宿の様子がかなりガチンコ激アツに描かれていて、感動してちょっと泣きました。そういう徹底した取材があってのあのストーリーだったのですね。
高木:ありがとうございます!合宿も丁寧に描かせていただきましたが、ミュージカル本編もかなり熱をこめました! ネームでは100ページぐらいあって、ストーリーも、全部の曲の歌詞も、幕間のコントも、MCもアドリブも……、全部描いちゃったんですよ(笑)。
編集さんが「書きたいだけとりあえず書いてみていいですよ」って言ってくれたので、全編出したら「すごく面白かったんですけどこれは最早『ミュージカル 力士の貴公子』であって、『ドルメンX』じゃないです!」って言われました(笑)。