「台本を読んだときは“子供ってこんなに物分かりがいいか?”って思うところもあっけれど、そうやって現場で接した玉季ちゃんは思っていたより、いろんなことを理解しているし、周りの空気やバランスを見たりしているから、とても自然で。
美紀も映画用に誇張された、特殊な子供という感じはしないし、僕も特別作り込んだ芝居をすることもなく、父親として、この年齢の娘がいたらどう接するだろうか? というところで演じています」
妻が亡くなって1年。本作はそこから娘の美紀を育てながら、彼女と一緒に成長していく健一の10年を見つめていくが、山田は繊細な彼の心の変化についても冷静に考えていったようだ。
「美紀が2歳とか3歳のころはまだまだ子育てと仕事でいっぱいいっぱいだし、辛いし、助けて欲しいという弱さも出ちゃうと思うんですけど、時間とともに、笑える回数も増えていくだろうし、妻の遺影を見ながらずっとめそめそしていないような気がしたんです」と山田は言う。
撮影秘話:遺影の妻と会話するシーン
「撮影に入る前に、飯塚監督から『指輪、どうする?』って聞かれたときは、それとは別の理由で「僕は『つけてない』を選んだんです」と打ち明ける。
「指輪をしているのも気持ちとしては分かるけれど、指輪をしていると人に妻について聞かれて、その度に彼女が亡くなったことを説明しなければいけなくなる。それは辛いし、大変だからと考えてつけなかったんです」
ところが、美紀が2歳のころの、遺影の妻と会話するシーンを撮影するときには「どうしてもつけたくなって」監督に「つけていいですか?」と懇願したという。
「当然『何で?』って聞かれましたよ(笑)。
だから、『せめてこのときだけは、妻と繋がれるもの、妻を肌で感じられるものが欲しいから、つけたいです』と素直な気持ちを伝えて、飯塚監督も快諾してくれました。
映画では見せないんですけどね。そこは別に映さないし。
ただ、それも美紀が2歳の小さいときだけで、彼女が大きくなってからはしないだろうなと思っています」
山田の言葉を聞けば、聞くほど、本作が本当にそこにあるがままの父と娘の姿を紡いでいこうとしているのが伝わってきた。
そこには、随所に散りばめられた飯塚監督ならではのクスッと笑える描写も絶妙な形で盛り込まれている。
「監督は、会話の端々に飯塚節を入れてくるんですよね」と山田が説明する。
「物語をストレートに進めていくと、どうしても重苦しくなっちゃうけれど、クスッと笑える描写を入れることで、それを緩和させると言うか。
例えば健一が、母親の絵を描くことに悩んでいる美紀を妻と顔が似たカフェの店員・成瀬に会わせようとして、彼女に『明日の朝、少し回り道をしてくれませんか』とお願いするシーンがあるんですけど、そこで成瀬は『イヤです』って即答するんです。
思ってもいない言葉が返ってきたから、健一は“え?”ってなっちゃうんだけど、ああいう描写はひねくれた感じがしつつも、けっこうリアルで飯塚監督っぽいなと思います」
観ていてかゆくなるような作品にはならない
山田はさらに続ける。
「それは飯塚監督の照れ隠しでもあると思うんですけど、ああいうリアリティを足すと、観た人もきっと気持ちが入りやすいような気がします。
“世の中、そんなにとんとん拍子に物事は進んでいかないでしょう?”って一瞬でも引かれちゃったら、感動できなかったり、共感できなかったりするけれど、ああいう描写はリアルでもあり、笑いでもあり、監督のテレも見え隠れするから好きですね(笑)。
クライマックスにはがっちり“セリフ”で押すシーンもありますけど、観ていてかゆくなるような作品にはならないと思っています」
果たして、山田孝之の子育てや周囲の人々とのドラマはどんな形で結実するだろうか?
重松清の傑作小説を得て、彼がどんなパパになって私たちの心を揺さぶるのかいまから楽しみでならない。
『ステップ』は、春の温もりを包まれた4月3日(金)からロードショー