早い時期から休園を決めた保育園の取り組み

次にお話を伺ったのは、保育園の繭の糸グループを運営する辻村人財コンサル㈱辻村あい理事長です。

自分の子どもを通わせたい保育園をつくるという想いから、4年前に文京区に保育園を立ち上げ、今では文京区・新宿区に4園を運営しています。

目下、保育園のある自治体の判断に従い、全園休園しています。そのうちの1園で新型コロナウイルス感染者が出ましたが、それがわかったのはすでに休園が始まった後。

早めに決断できた背景などをお聞きしました。

平時から気をつけていたこと

繭の糸グループでは、平時から平時から気をつけていたことがあったといいます。それはどういったことかお聞きすると、

「日頃からインフルエンザや感染症には気をつけていました。2月の中旬には、消毒液を大量に購入していましたね。10リットルのものを30個。それを小さな容器に移して社員や保育士に配っただけでなく、お預かりしているお子さんの家庭にもすべて配りました」

そういえば、3月に入るとあっという間に消毒液やマスクが入手しにくくなりました。そう考えると、繭の糸育園さんのアクションはかなり早かったと言っていいでしょう。

保護者との関わり合い

3月には保育園で保育士の感染者が出たニュースや、病院でのクラスターが報道されるようになってきました。

「保育園は“三密”は避けられませんので、もう誰が感染してもおかしくないと思いました。それで国の緊急事態宣言の前日には4つのうち3つの園の休園を決定し、各家庭に電話で連絡をしたんです。最後の園もその後、休園にしましたね」

早い決断に保護者はどんな反応だったかをお聞きすると、約70家庭に電話して、クレームは1件もなかったとのこと。普段から連絡を密にしたりすることで、保護者と園との間にしっかりとした信頼関係があったのですね。

これからの心がまえ

園はすでに6月末までの休園の延長を決めています。

「長期戦になると思いますので、今まで自宅にPCやWi-Fi環境がなかった職員も含めた全員にオンライン環境が整っているかを確認中です。子どもに向けた動画編集をするにも、スマホでは限界があるので」

連休の前半に、半日かけて全職員とオンラインで会議をしたという辻村さん。その時に職員に言ったことは2つだけ。

「家の掃除をすること」と「親孝行をすること」。

どういったことか、詳しくお聞きすると、

「家の乱れは心の乱れ。心の乱れは仕事の乱れ。仕事の乱れは保育の乱れにつながります。

業務時間を使っていいから家の掃除をするように言いました。もう一点の親孝行ですが、GW中の帰省は禁止したのですが、親が生きているなら、オンラインや電話などで親と連絡を取るように言いました。

なぜ親孝行かというと、いちばん身近な親を大事にすることが、次に身近な職場の人を大事にできて、それができたら子どもと保護者を大事にできるという考えだからです」

さらに、繭の糸グループでは、ごとに毎日、オンライン朝礼と終礼をしています。健康チェックもかねていったん顔を合わせ、少し雑談をしながら一日の在宅勤務を始めているそうです。

「職員のなかには1人暮らしで孤独な人もいるので」という辻村さんの言葉に、職員への愛情を感じました。人は優しくされるから人に優しくできるのだといいます。優しさの連鎖が園から子どもへ、子どもから保護者へと回っていると感じました。

今まで誰も経験したことのなかった状況を、私たちは生きています。ですから「これが正解」ということはないですよね。

保育園、保護者と立場は違えど、子どもたちのために最善のことを探ってやっていくしかありません。今後どうなっていくかはまだわかりませんが、落ち着いてお互い協力しあえるといいですね。