空前のパンブームだ。1日3食パンを食べている人も少なくない。けれど、その原材料である小麦がどのように作られているのか、ご存知だろうか。
袋に入った小麦粉しか見たことがない人が大半ではないだろうか。
パンに欠かせない小麦を栽培するワークショップ「種から種へ」(以下、「種種」)が開かれている。
「種種」で行われている取り組み、そして「種種」に参加するいま注目のパン職人たちのインタビューを通じて、“パンの現在と未来”を考えてみよう。
「小麦畑を見たことで、考え方が変わりました」
「ブラフベーカリー」(横浜市)のオーナーシェフ、栄徳剛さんは、ときに来れない回もあるが、参加するときは5人の子どもと一緒に畑に登場する。もちろん、ブラフベーカリーのパンや焼菓子などを持参でかけつけてくれる。
なかなか横浜までパンを買いに行けない人も、「種種」に参加すれば、栄徳さんのパンが食べられる可能性が高い。
これまでレポートしてきたように「365日」の杉窪シェフと「カタネベーカリー」の片根シェフは、自身で小麦を栽培している。
栄徳シェフも小麦を作らないのかどうか尋ねた。
「僕も北海道や石川県、熊本県の小麦農家さんで農作業を手伝ったことがあります。北海道ではトラクターに乗らせてもらい、収穫体験をさせてもらいました。
でも、『ブラフベーカリー』として小麦を栽培する予定はありません。費用もかかるし、スタッフにも頼まなければならないし。小麦作りは大変です」
小麦栽培を手伝ったのは、その経験がないと農家と話ができないからだ。農家の言葉を理解したいと思い、自主的に畑へ出かけていたというのだ。
「小麦畑を見たことで考え方が変わりました。小麦は農産物だという意識を持つようになりました。また、農作物であるがゆえに、いろいろなリスクがあることも見えてきます」
スーパーで売られている小麦粉の袋を見ていると、小麦は工業製品だと思いがち。品質がブレたら怒るし、味が変わると怒りたくなる。
けれど、農産物なら毎年味が変わって当たり前。
「そういうことが畑へ足を運び、農家さんと話をしているうちに理解できるようになってきました。
農家さんがわかるということは、農家さんもパン職人が見えてくるということ。農家さんが自分の店に来たとき、恥ずかしいパンを作りたくないと思うようになりました」