空前のパンブームだ。1日3食パンを食べている人も少なくない。けれど、その原材料である小麦がどのように作られているのかご存知だろうか。
袋に入った小麦粉しか見たことがない人が大半ではないだろうか。
パン作りに欠かせない小麦を栽培するワークショップ「種から種へ」(以下、「種種」)が開かれている。
「種種」で行われている取り組み、そして「種種」に参加するいま注目のパン職人たちのインタビューを通じて、“パンの現在と未来”を考えてみよう。
小麦ってどうやってできるの? 種まきから体験できるワークショップ「種種」
2019年11月10日、多摩地区の里山の畑に大勢の人が集まっていた。
近づいてみると種まきの真っ最中。
「パン好きが集まり、小麦の種をまいているところなんです」と教えてくれたのは池田浩明さんだ。
池田さんは、『パン欲』(世界文化社)などを上梓しているパンライターで、パンの研究所「パンラボ」の所長で、NPO法人「新麦コレクション」の理事長でもある。
パンライターの池田さんが、なぜ小麦の種をまいているのか。
「パンは大好きですが、小麦が栽培されて、小麦粉になるまでの工程を知りませんでした。みんなでいっしょに、小麦を育てみたいと思い、ワークショップ『種から種へ』(以下、「種種」)を企画しました」
米ならば春先、田んぼに苗を植え、秋頃収穫することを知らない日本人はまずいないはずだ。
けれど、小麦はどうだろう。毎日パンを食べる人はいても、小麦畑を見たことがある人はどれだけいるのだろう。
池田さんはSNSなどで一般募集し、みんなで小麦を栽培することにしたのだ。
秋の種まきから始まり、約8か月の間に7回ほど畑に集まり、翌年9月に小麦を収穫する。
農作業を愉しみながら、小麦作りを学び、最後にみんなで食べようというのが、「種種」の趣旨だ。
池田さんが用意した小麦は、「農林61号」、「セトデュール」、北海道で開発された「キタノカオリ」や「きたほなみ」などの5品種のほか、参加者がジョンさん(後述)の小麦と呼ぶ種だ。
「じつは、今日まいた種は昨年(2019年)6月に『種種』で収穫したものなんです」
「種種」がスタートしたのは、2018年10月下旬のことだ。
毎回30名から50名ほどのパン好きが、ここ東京都町田市郊外にある畑に集まった。
畑の広さは約150坪。10年以上休耕田だったため、腰の高さまで雑草が伸びていた。つまり10年以上化学肥料も農薬も使われていない畑だった。