「小麦畑を見に行った子は、パン業界から去りません」

小麦栽培の大変さがわかり、農家の気持ちがわかってきたことで、自分自身に、もうひとつ変化があったという。

「小麦のブレンドが減りました」

それはどういう意味なのか。わかりやすく説明してもらおう。

いままでのパン作りは、いろいろな品種の小麦粉をブレンドするのがあたり前だった。ブレンドすることで、足りない部分を補い、安定したパン作りを目指していたからだ。

けれど、親しくなった農家の小麦を扱わせてもらえるようになったことで、ブレンドしないようになったというのだ。

農家に「どこの小麦を使っていますか」と尋ねられた際、「3つの畑の小麦をブレンドしています」と言いにくくなるからだ。

「小麦栽培を手伝わせてもらったことで、小麦に関する考え方やパンへの思いが変わりました。多少味がブレても、作りにくくても、個性があるパンが好きだし、そういうパンを作りたいと思うようになってきました」

では、それをスタッフに体験させたいと思うかどうか。

「こればっかりは好き嫌いがあるかならなあ。勉強しろ、勉強しろとは言いたくないし。行きたいと思う人には、行かせてあげられる環境にしたいし、農家さんを紹介します。

小麦畑を見に行った子は、パン業界から去りません。自分もそうでしたが、畑を見ると変わるんです」

それはパン職人に限ったことではないはずだ。

改めて「種種」を企画・主催する池田浩明さんに話を聞いた。

「白い小麦粉からパン作りがスタートするのではありません。土から小麦が生えてくることから始まります。それを知りたくて『種種』を始めました。パンは美味しいだけでなく、知れば知るほど面白くなってきます。実際、自分自身がそうです(笑)」

「種種」は今後もまだまだ続く。遊びながら、小麦について勉強し、畑で美味しいパンを食べよう。

【ブラフベーカリー】
住所/神奈川県横浜市中区元町2-80-9 モトマチヒルクレスト1階
電話/045-651-4490
営業時間/8時〜18時30分
無休

【アンダーブラフコーヒー】
住所/神奈川県横浜市中区上野町1-8
電話/045-264-8059
営業時間/8時〜18時
無休

※緊急事態宣言の発令に伴い、コーヒーなどの飲み物、焼き菓子、サンドイッチなどのテイクアウトを受け付けている

【ブラフベーカリー日本大通り店】
住所/神奈川県横浜市中区本町1-5
電話/045-662-0181
営業時間/11時〜19時(土日11時30分〜19時)
無休

協力/GARVY(実業之日本社)

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東京五輪開催前の3歳の時、亀戸天神の側にあった田久保精肉店のコロッケと出会い、食に目覚める。以来コロッケの買い食いに明け暮れる人生を謳歌。主な著書に『平翠軒のうまいもの帳』、『自家菜園のあるレストラン』、『一流シェフの味を10分で作る! 男の料理』などの他、『笠原将弘のおやつまみ』の企画・構成を担当。