── 視聴した人の意見などで、なるほど、こういう観方や感じ方があるのか、というような、予想外の発見などがあったら、教えてください。

一之輔 配信を観ながら、ツイッターやチャットでコメントすることに対して、集中して観ればいいのになって、最初は感じていましたが、だんだん、そうか、家で視聴するっていうのはそういうことだよな、って思うようになった。

家でDVDの映画を観たり、TV番組を観たりするとき、集中してじっくり、という入り込み方もあれば、横にいる人と雑談しながら「この人はあんまり芝居、巧くないね」とか

「この人かっこいいね」とか何とか、家の人としゃべったりすることもありますよね。配信ならそういう観方もありなんだ、楽しいかもしれないなって思い直しました。

── 今、らくごカフェで行っている配信の現場は、何人くらいのスタッフの方が関わっていますか。

一之輔 スタッフさんは実質ふたり。

カメラは一応2台あって、最初のころはアップ用にも1台使ったりしたけど、ぼくは基本的に、落語の映像としては、真正面で全身をとらえたカメラが1台で十分だと思っています。

ずっと昔から、落語にカメラは何台あったらいいのかという問いは、どれがベストなのか、正解が出ていないけど、ぼく個人は1カメ派です。

── 今後、オンラインの落語会は、大きな流れになっていきそうな予感はありますか。観ている側には強くあります。

一之輔 どうですかねえ、大きな流れか……。いや、大きな流れになってくれない方がいいですけどねえ。

── あ、そうですか? そこはもうちょっと詳しく訊きたい。

一之輔 やっぱりライブ主流の方がいい。

会場に来られない人に対するサポートみたいなものとして、配信があるのならいいけど、それが大きな流れになるとすると、ちょっと考える。

演じ方も変わってくるかもしれない。配信用の演じ方が、できてくるかもしれないですよ。

配信慣れしちゃった感じの落語のしゃべり方みたいなものが、やり続けると出るかもしれない。目の前にお客さんがいないことの弊害が、どんと出てくる。

空気を感じて、演じ方を変えていくところがなくなってしまう。ある噺の演じ方として、トントントンと運んでいかなきゃいけないところで、聴いている人を置いていかないように、丁寧にやってしまう。

噺を「置きに」いってしまう。ぼくの場合だけかもしれないですけど。

── 一之輔さんのレベルでさえも、「オンラインの落語のやり方に慣れて、ライブに戻ったとき変な癖がついたりしたら怖い」っていう危機感があったりするんですか!?

一之輔 あ、ありますよ、ぼんやりと。今、満員の客席を前にしてしゃべったらどうなるかなって思うときはある。

配信は始まったばかりで、まだそんなに回数を重ねてないからいいとして、これが主流になったとき、いざ満員の前に出たときにどうなるかというのは、ちょっと怖いです。

春風亭一之輔

1978 年、千葉県野田市生まれ。大学卒業後の2001年、春風亭一朝に入門。2004年11月、二ツ目昇進、「一之輔」と改名。2012年3月、21人抜きで真打昇進。200を超える持ちネタがあり、滑稽噺から人情噺まで広く古典落語を演じるとともに、現代的なセンスの効いた独創的な高座で知られる。当代きっての人気を誇り、年間900席もの高座をこなすなど、寄席、ホール落語問わず精力的に活動。

よみらくご第18回公演「わるいヤツら」PIA LIVE STREAMにて配信

配信日:6月4日(木) 18:30
出演:瀧川鯉八、春風亭一之輔、古今亭文菊、林家正楽、春風亭一朝
視聴券料:2000円