ベビー休憩室は確実に増えているのに、まだまだ“足りない”と感じる理由

キッズデザイン賞 優秀賞(少子化対策担当大臣賞)受賞『ベビー休憩室コンセプトブック』 画像提供:コンビウィズ株式会社

仲:『ベビー休憩室コンセプトブック』制作時のアンケートでも、92%もの保護者が、赤ちゃん連れでの外出に不便を感じています。

そして注目すべきことに、外出に不便を感じている保護者の割合というのは、10年前の調査とほとんど変わっていません。

ではママたちが実際に、何に不便を感じているかというと、約6割の方が「授乳やオムツ替え、赤ちゃんを落ち着かせる場所がない」と回答しています。

つまりこの10年余りの間に、ベビー休憩室などの設備を設ける施設は確実に増えているにも関わらず“不便感”や“不足感”は解消されていないのです。

ここで10年前と現在を比べてみると、たしかに母乳育児をするママは増加していますし、さらにニーズも多様化していますから、ベビー休憩室の整備が追いついていない、という背景はあるかもしれません。でもおそらく、原因はそれだけではなく。

ベビー休憩室の計画自体にも、改善できる点があるように思うのです。

――授乳やオムツ替えのスペースは現実として増えているけれども、プランそのものに問題があって活用できていない、ということですか?

仲:具体例を挙げてお話しましょう。

ベビー休憩室の利用者にグループインタビューやアンケートをしてみると、いろいろな問題点が浮かび上がってきます。

例えば「オムツ替え」であれば、各階のトイレにオムツ替え台が設置されていることが多くなってきましたが、「授乳室」となると、大きくて広~いデパートでも子ども用品売り場のフロアにしかなくて困った!というご経験はありませんか。

――あります、あります!デパ地下やレストランにいたり、大人のための買い物をしている時に子どもがグズって、ベビー休憩室のある階まで移動するのに一苦労、なんてことがよくあります!

仲:赤ちゃん連れのママは、荷物も多いから大変ですよね。

この問題は、各階のパウダースペースに授乳コーナーを設けるといった方法で解決できることもあります。サービスを1カ所に集中させるのではなく「多室分散」という考え方に基づいてプランニングするのです。

ほかにも、ママたちの不満や困惑を拾ってみると。

「授乳とおむつ替えの混在」という問題もあります。私自身、この点に一番強く違和感を覚えているのですが。

おむつ替え台の横に電子レンジが置いてあって、プーンとうんちのにおいがする横でチーンと離乳食が温められる、またはそのすぐ横に授乳ソファが置いてあっておっぱいをあげるようになっている、という大人だったらあり得ない状況、もっと直接的な言い方をすれば“食事と排泄の混在”が、ベビー休憩室ではしばしば見られるのです。

――それも、よく分かります……「赤ちゃんがこんなトイレみたいな場所で食事をとらなきゃならないのだったら、大人と一緒にレストランで授乳させて欲しいなぁ」という気持ちになったこと、何度もあります。

仲:この事例を通して言えることは、大人を対象にする場合は絶対に避けたいデザインを、赤ちゃんに対しては無神経に、実態をよく知らない人がなんとなくオシャレ風にデザインしてしまうことがあって、それは赤ちゃんにとってもママにとっても決してうれしい環境ではないわよね、ということです。

ほかにも、これは自分自身の体験からも言えることですが、まるで反省部屋のように殺風景な授乳室も、すすんで利用したいとは思えないですよね。なんでこんな独房みたいなところに閉じ込められておっぱいをあげているんだろう、と悲しくなってしまいます。

それとは逆に、お城やお菓子の家のような過度にファンシーな授乳室も、パパなど男性は立ち入りにくいですよね。母乳エリアのみをあえてそうすることもあると思いますが、ミルクの調乳など、最近はパパと赤ちゃんだけのお出かけもありますから。

こんな風に、実際に利用している方たちの声に耳を傾けてみると、授乳室をはじめとしたベビー休憩室は「あれば使える」ものでは決してない、ということがご理解いただけると思います。

「授乳するならベビー休憩室へ行け」というご意見もあると思いますが、そこが健康な大人ひとりで移動するならどうということのない距離でも子連れには遠かったり、人が“食事”をするには不適当な場所だったりすることもある。

だから一概に「ベビー休憩室へ」と断じることはできないと思いますし、施設側にも、改善できる余地があるところもあるのではないか、と感じています。

――では仲先生の考える“理想のベビー休憩室”は、どんな環境になるのでしょうか。