「公共の場での授乳」は時に「公然わいせつ罪では?」と非難されることも。さらに授乳を「当然の権利」と主張するママもいれば「見たくないものを見ない権利」を訴える人もいます。
果たして法的にはどのように考えられるのか、弁護士の宮川舞先生に聞きました!
「公共の場での授乳」は「犯罪」になる?ならない?
――最初に、ズバリお聞きします。「公共の場での授乳」が、罪に問われる可能性はあるのでしょうか。
宮川舞先生(以下、宮川):犯罪となるのかどうか、ということですね。
まず軽犯罪法の第1条20号として「公衆の目に触れるような場所で公衆にけん悪の情を催させるような仕方でしり、ももその他身体の一部をみだりに露出した者」という条項があります。
また刑法174条には「公然とわいせつな行為をした者は、六月以下の懲役若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。」とあります。
ここでいう「わいせつ」とは判例によれば「徒(いたずら)に性欲を興奮又は刺激せしめ、且つ普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義に反するもの」とされています。
なので「公共の場で胸を出す」という行為が、何らかの犯罪に該当する可能性があるとしたら、軽犯罪法の定める「軽犯罪」か、刑法の定める「公然わいせつ罪」になると思われます。
胸は「しり、ももその他身体の一部」に該当すると考えられますし、またその露出は「わいせつな行為」とも捉えられるからです。
ただ、どちらの法律にも「“みだりに”~」「“徒に”~」という要件、つまり法律の効果を生じさせるために要求される事実があり、授乳は通常「みだりに」でも「いたずらに」でもなく「必要があって」している行為ですから、ここには基本的に当てはまらないと解釈していいと思います。
とりわけ事故的なもの、例えばママがケープ等で隠しながら授乳をしていて、一瞬ポローンと見えちゃったようなものは、問題にならないと考えてよいでしょう。
――一瞬ポローン、は犯罪にはならないんですね。どんなに周りに気配りをしても事故的な事態は避けられないこともあるので……ホッとしました(笑)
宮川:もちろん、授乳も終わったのにダラーッと出しっぱなしにしていた場合、罪に問われる可能性があるかもしれません。そんなママは、まずいないと思いますが(笑)
そして「公然わいせつ罪」とまではいえない軽微な犯罪に実際に適用されているのが「軽犯罪」であり、その「軽犯罪」にあたるとされる行為が「露出」を前提としていることから考えると、授乳ケープや授乳服で隠しながら授乳をしているその行為自体が「乳房の露出を連想させるから」「わいせつっぽいから」等の理由で犯罪として成立するかといえば、成立しないということができると思います。
「見たくないものを見ない権利」とは?
――「公共の場での授乳」が「犯罪」になり得るかといえば、ならないということについては理解できました。
が、「公共の場での授乳」に異を唱える人たちによっては「見たくないものを見ない権利がある」と主張する方もいます。この「権利」についてはどうでしょうか。
宮川:最高裁の判例として「日常生活において見たくないものを見ず、聞きたくないものを聞かない自由」について、裁判官が補足意見を述べているものがあります。
最高裁判所はそのなかで、個人というものは「他者から自己の欲しない刺戟(しげき)によって心の静穏を乱されない利益を有しており」さらに「これを広い意味でのプライバシーと呼ぶことができる」として、心の静穏の侵害がプライバシーの侵害として考えられることもある、という法的な見方を示しています。