『越年 Lovers』1月15日(金)公開 ©2019映画「越年」パートナーズ

撮影裏話:「あのシーンはよかった」とみんなから言われる

――ああいう人がいるとドキュメンタリーっぽい感じにもなりますしね。

この映画のメガホンをとったグオ・チェンディ監督が、もともとはドキュメンタリー映画で評価された人みたいで。だから、そういう要素もけっこう多いと思います。

クライマックスのふたりが揉み合うところも、引きだけ1発で撮って寄りの画を1回も撮らなかったので。

日本の監督だったら顔の寄りや手の寄りを撮るんだろうけど、引きの1発だけだったから、そういうところがこの監督っぽいと言うか、台湾の人の感性なのかな~と思いました。

――この『越年 Lovers』はマレーシア編、日本編、台湾編の3章からなるオムニバス映画ですが、日本編のエピソードも岡本かの子さんの原作「越年 岡本かの子恋愛小説集」「老妓抄」の中にあるエピソードなんでしょうか?

渋谷駅の階段を上ったところにある岡本太郎さんの大きな絵や、ふたりがコーヒーを飲む岡本太郎さんも通われていた「蔵王」という店名のロッジとそこに飾ってある岡本さんの絵に原作の要素がちょっと含まれているぐらいです。

日本編のお話自体は完全に映画のオリジナルですね。

――橋本さんとのシーンはどこから撮影に入ったんですか?

順撮りって言うんですかね? ほとんどそれに近かったので、初めて会うシーンを最初に撮りました。

――寛一と彼の友だちが、雪で動けなくなった車をその下に服を敷いて動かそうとしているところに彼女がやって来るくだりですね。

そうです。パンツ姿になっちゃっていた僕がズボンを履き直しているときに現れて、見られた僕が「あっ!」ってなるあのシーンです(笑)。

――あそこで、寛一と友だちがどっちのジャンパーを車の下に敷くのかで言い合いになりますけど、寛一が「自分のはエレファントカシマシのジャンパーだから」って嫌がるあのセリフはアドリブですか?

いや、決まっていました。台本にはないんですけど、監督やプロデューサーと話しているときに「峯田さんは誰のライブに行かれますか?」って聞かれたから「エレカシですかね~」と言って。

それで「じゃあ、エレカシで行きましょう」みたいな感じで決まったんです。

――髪の毛もこの役のために短く?

と言うか、撮影がNHKの大河ドラマ「いだてん」と重なっていて。

あっちが先に坊主頭で始まっていたんですけど、「いだてん」はそれほどメインの役ではなかったので、「坊主頭のままでよければ、空き時間を見つけて山形にも行けますよ」という流れで参加させてもらったんです。

『越年 Lovers』1月15日(金)公開 ©2019映画「越年」パートナーズ

――みなさんたぶん言われると思うんですけど、寛一が碧の作ってくれたお雑煮を食べるシーンがとてもいいですね。

みんな言いますね。インタビューを何度も受けてるんですけど、「あのシーンはよかった」って、みなさん言われます。

――ふたりの距離があそこでグッと近づきますけど、あれはどこまで演出が入っているんですか? 寝ていた寛一はいきなり起きて、何も言わずに食べ始めますよね(笑)。

あそこは本番も何回かやったんです。で、確か鼻水が出ていたので「紙を取ってください」みたいな芝居を僕が提案したと思います。

それで、ふたりの関係がちょっと溶け合うみたいな感じになったんですけけど、あのシーンはいちばんテイクを重ねたかもしれない。

――ピンクの毛布を途中で被り直すのも可愛くてよかったです(笑)。

監督が「OK!」と言った後に「もう1回」って言うじゃないですか? でもそれは、いまのはダメだったからもう1回ということではなくて、面白かったから違うパターンも見せてっていう感じだったんです。

やる度にお餅を食べなければいけなかったから大変でしたけど(笑)、さっきはこうしたから今度はやらないでみようとか、自分なりにいろいろ変えてやったのを覚えています。

――あのシーンでは、食べている峯田さんを見ている橋本さんの表情もよかったですね。

あのシーンはセリフはないけれど、ふたりがちょっとだけ近づくところだろうな~というのは橋本さんも僕も何となく意識はしていて。

「よかったですね~」って言ってくださる人がいらっしゃるということは、そのニュアンスが上手く表現できたのかなと思います。自分ではちょっと分からないですけどね。

僕、人が食べているシーンがけっこう好きなんです

――いや、素晴らしかったです。寛一にとっては至福の時間だったと思いますし。

僕も映画が好きでけっこう観るんですけど、僕、人が食べているシーンがけっこう好きで。

例えば韓国映画とかだと、ジャージャー麵をすごい音を立てながら食べるじゃないですか。イタリア映画だったら音を立てずにパスタを食べると思うんですけど、その食べ方によってその映画の性格が出る気がするんですよ。

そういうところがすごく好きで。今回もお雑煮をス~っとすする音だけで東北っぽい感じが伝わってきて、それがとてもよかったですね。

――寛一と碧が、玉こんにゃくと饅頭を目を合わさずに交換するところもよかったです。

台湾の人からしたら、“玉こん”は珍しい食べ物みたいで。僕が最初に食べている大福みたいなお饅頭も蔵王では有名なお菓子みたいですけど、外国の人って自分の国にないものを見つけると、何これ? 面白い。これを撮ろうという思考回路になるみたいで。

特に“玉こん”はあの形が珍しかったみたいで、「このまま食べるんだ?」みたいな感じで面白がっていましたね。

『越年 Lovers』1月15日(金)公開 ©2019映画「越年」パートナーズ

――橋本さんとの現場でのやりとりで覚えていることは?

今回は分かりやすい指揮者がいない現場と言うか、監督が日本語を喋れないということもあって、細かく「ここは、こうしましょう」という作り方じゃなかったんです。

バイブルは台本で、自分がそこから感じ取ったものを持っていって、現場でやって見せる。で、それを見た監督が面白かったら「OK」みたいな。

だから、けっこう自由に動き回れた現場だったんです。

――外国の監督だと、コミュニケーションがとれなくて、やり難いところもあるのかなと思ったんですけど…。

監督がやって欲しいことは片言の英語で分かりました。

でも、基本的に「これをやって欲しい」というよりは、「これはやらなくていいですからね」みたいなところでの会話だったような気がします。

――例えば、どんなことですか?

例えば、写真館の前を3往復するシーンのときに「3往復の途中で立ち止まるのは全然OK。任せます」みたいな。

それで、自分の気持ちのままにやって見せて監督が面白いと思ってくれたら「OK!」という感じだったんですけど、自分が思う、これはたぶんNGじゃないんじゃないかな~っていう芝居をけっこう自由にやれたと思っています。

――クライマックスの撮影はどんな感じだったんですか? バーっと歩いて行った碧が戻ってきて寛一を転倒させますが、あの一連は、女性の方が結局仕掛けたような感じに見えます。

この映画の3つのエピソードに出てくる男たちはみんなダメですよね。

女性をいきなりぶっ叩いたり、何を考えているのか分かんない男しか出てこないけれど(笑)、原作者が女性だから、どこかそこには女性目線もあるんでしょうね。これが、例えば夏目漱石だったらまた違うと思うんですよ。

どこか男目線で、玄関に毎日毎晩同じ女が立っているみたいな感じになっていたかもしれない(笑)。でも、今回は登場する男たちがみんなディスコミュニケーションで、それに女性が振り回される。

そこには、女性から見た男性の何か共通する印象があるのかもしれませんね。

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