『越年 Lovers』をどんな人たちに観てもらいたい?

――この映画をどんな人たちに観てもらいたいですか?

起承転結がはっきりとした、山あり谷ありみたいな分かりやすさはないけれど、自分の日常に近い人たちが映っていて、なんか、ホッとするような映画にはなっていると思います。

映画にはいろんな楽しみ方があると思うし、自分の日常とかけ離れたアトラクションのような世界を楽しむ作品もありますよね。

でも、一方には、好きな人に想いを上手く伝えられなかったりする、自分に近い問題を抱えた人が出てくる映画もあります。

この作品も、最近、あの人との関係が上手くいっていないなと思っていたり、何かの問題にぶつかっている人たちがちょっとでも前を向いてくれるような映画になればいいなと思っています。

役者という仕事の位置づけ

――ところで、峯田さんは音楽活動だけじゃなく、最近は役者の仕事も多いと思うんですけど、ご自身の中では、役者の仕事はどういう位置づけなんですか?

楽しいです。音楽は楽しいだけじゃない。と言うか、仕事なんですよね。

――お芝居も仕事ですよね。

お芝居の方は、仕事とあまり思っていない節がありますね(笑)。音楽の場合は作品を作るために、すり減っていく自分がいて。

昔からやってきて、ずっとやって行こうと決めたことなので、これからもやっていくと思うんですけど、お芝居をやると、そのすり減っていく作業からちょっと逃れられて、やっと人間に戻れるようなところがあるんです。

――もう少し楽にできるわけですね。

そうですね。楽しもうって感じですね。音楽は楽しもうというのはあまりない。それ以上に重い、責任感みたいなのが伴いますけど、お芝居って監督に投げられるんですよ。だから、楽なんです。

曲を作って「歌詞できねえ!」って言って、追い込まれたときは「ガー」ってひとりで部屋で叫び声を上げているような日常とは違って、お芝居は脚本家がセリフを作ってくれるからすごく楽。

それで、観た人も喜んでくれるけれど、音楽ではそんなことにはならないですから。

――ちなみに、映画が好きでよくご覧になるって言われましたけど、どういう作品が好きなんですか?

どんな映画でも観るけれど、昨日観直したのは、クエンティン・タランティーノ監督の『ワンス・アポン・ア・イン・ハリウッド』(19)。

去年は家にいることが多かったので、けっこうたくさん映画を観ました。DVDもよく買いますよ。

――タランティーノが好きなんですか?

好きです。大学生のときに初めてリアルタイムで『レザボア・ドッグス』(92)を観て、そこから新作のたびに映画館に行っています。

VHSも買ってDVDも買って、デザインが新しくなった再発版のDVDも買ったりするから『パルプ・フィクション』(94)と“レザボア”は5、6枚持ってます(笑)。レーザーディスク以外は全部持っていますね。

――自宅はコレクションでスゴいことになってるんじゃないですか?

そうですね。いっぱいありますよ。スタンリー・キューブリックとかレオス・カラックスとか、好きな監督の映画のDVDはいつでも観られるように買うことが多いですからね。

――『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』も好きですか?

最高です(笑)。

――シャロン・テート事件を知っている人は悲しい結末になるんだろうなと思いながら観ていくわけですけど、あの映画ではそうならないところが………。

変えたんです、運命を。ブラッド・ピットとレオナルド・ディカプリオが演じたあのふたりが(笑)。

――そこがいいですよね(笑)。

最高! 最高! 事件を起こすチャールズ・マンソンを演じていたデイモン・ヘリマンの喋り方が、本人の喋り方にそっくりで。

実はチャールズ・マンソンは音楽家なので、アルバムも出しているんです。劇中のセリフにも出てくるんですけど、ザ・ビーチ・ボーイズのデニス・ウィルソンと仲がよくて、デニスが「チャールズ、オマエもアルバムを出そう」と言って、レコーディングをしているんですよ。

でも、それが果たされず、お蔵入りになっちゃったからチャールズがデニスにキレて「ハリウッド、むかつく! 人を殺そう!」となって。

シャロン・テートと夫のロマン・ポランスキー監督が住んでいた家をメンバーに襲撃させるんだけど、あそこはもともとデニスが住んでいた物件なんですよね。

で、そのチャールズ・マンソンのお蔵入りしたアルバムも、お蔵入りになったものの、再発運動が高まる中で音源が出ていて、めっちゃいいんです。

そのアルバムにはチャールズが喋っている声も入っているんですけど、あの俳優の喋り方や雰囲気はそのアルバムの声にすごく似ているんですよ。

どんな質問をしても、飾らない自分の言葉で真摯に答えてくれた峯田さん。

その山形弁の訛りも人間臭くて、周りを温かな空気で包み込むが、撮影現場の状況や監督の演出、自分の心の動きや演技プランを丁寧に、明確に振り返るあたりは流石!

柔らかな言葉の中に仕事に対する厳しい姿勢が伺えたし、アクセルを踏み込むように一気に饒舌になり、話が止まらなくなった終盤では映画と音楽が本当に大好きなことが伝わってきて、聞いているこちらも楽しい気分に。

『越年 Lovers』でも、そんな峯田さんの魅力を堪能することができますよ。

映画ライター。独自の輝きを放つ新進の女優と新しい才能を発見することに至福の喜びを感じている。キネマ旬報、日本映画magazine、T.東京ウォーカーなどで執筆。休みの日は温泉(特に秘湯)や銭湯、安くて美味しいレストラン、酒場を求めて旅に出ることが多い。店主やシェフと話すのも最近は楽しみ。