©今井久恵

親の心の奥には

でも、親の心の奥には「あなたが障害さえ克服してくれたら、ママは幸せになれるのに……」という気持ちがあるのかもしれません。

「きっと伸びる、才能がある」の言葉を隠れ蓑にして障害受容できない親自身の姿がそこにあるのかもしれません。

でも、伸びない子どもも受け容れて初めて、受容になるのだと思います。

もしかして、障害の受容って、子どもの障害を受け容れるというよりは、親が「障害を受け容れたくない自分」を受け容れることなのかもしれません。

息子の場合

天才ピアニストを目指すも1年で挫折

息子の障害が判明してまだ年月が経っていない幼児期は、私も「絶対に何か秘めた才能があるはず。そこを探し当てて伸ばすことが親の愛、使命!」なんて考えていました。

盲目のピアニストの辻井伸行さんや、ダウン症の書家の金澤翔子さんなど、障害を持ちながら才能を開花させている人達をテレビで見ると、「息子にも才能があるのかもしれない」と期待するようになりました。

特に、ノーベル文学賞作家の大江健三郎さんの息子さんで作曲家の大江光さんが、ピアノを演奏している姿を見て、奮い立ってしまいました。

光さんは知的障害があり、幼少時から野鳥の声を正確に聞き分けて名前を言い当てていたそうです。

息子も、カラスや鳩の鳴き声を聞いて「はしぶとがらす」「どばと」「かわらばと」と言い当てるなど、幼少期から耳はよかったので、将来、テレビで「お子さんの成功はお母さんの努力の賜物ですね」と母としてインタビューを受けている姿を妄想しました。

こんな絵(下図)もよく描いていました。

そこで、さっそく息子をピアニストにしようと思い、“一音会”という有名なピアノ教室に、片道 1 時間半かけて4歳の息子を通わせることにしました。

レッスンのなかに 14 種類の和音を聞き分ける絶対音感獲得のための訓練がありました。通常は 1 年は要すると言われ、長い子だと習得に数年かかるものでしたが、息子はたった 2 ヵ月ですべての和音をピタリと当てるようになりました。

先生から「今まで指導したお子さんのなかで一番早くマスターしました」と言われ、有頂天になり「ああ、大江光も夢じゃないかも!」と思いました。

「息子の稼いだお金で隠居生活!」と妄想はますます加速していきました。そのため、「ピアニストにするには電子ピアノではダメだ」と思い、中古でしたが 30 万円するピアノを買いました。

当時は狭小住宅に住んでいたので置き場所がなく、ベッドを捨てて布団に変え、ピアノを置くスペースを確保しました。

しかし、ピアノ教室は 1 年後に退会することになりました。 30 万円した中古のピアノは、3万円で引きとってもらうことに……。

その理由は何だったのかというと…、耳はよくてもピアノを弾くことに興味を全く示さなかったからです。

興味を示さないどころか、練習をひどく嫌がり、続けられなくなりました。息子は聴覚過敏で、ピアノの音が嫌だったみたいです。私にも、それ以上やらせる根気はありませんでした。