植田圭輔が「フライング演出」に挑む
今作において、映画と大きく異なって描かれるのがポートマフィアの2人だ。
橋本祥平演じる芥川は、異能を喪うという窮地にあっても、ブレることのない意志を以て任務にあたる。
橋本の持つクールかつソリッドな魅力はこれまで同様、今作では、一層ストイックな芥川を好演している。
また、植田圭輔演じる中也との絡みでは、これまであまり出すことのなかった“後輩顔”もちらりと覗かせる。この点もファンがこれまで見たことのなかった“芥川像”となるのではなかろうか。
その中也は作中で八面六臂の大活躍を見せる。
演じる植田圭輔の運動神経の高さはもちろん、特筆すべきは“文ステ”初となる「フライング演出」への挑戦だ。
舞台表現が難しい「龍」との対決、異能力“汚濁”の発動を、プロジェクションマッピングとの合わせ技で見事に表現している。
劇中歌に合わせた一連のステージングは、原作を見たファンであれば、その再現度に感嘆するに違いない。
併せて今作では、原作にはなかったアクションシーンや、幹部然とした中也の一面が追加されている。
アンサンブルとともに魅せる大立ち回りにもぜひ注目いただきたい。
村田充が示した圧倒的存在感
その中也の元・相棒、太宰を演じるのは“文ステ”初登場の田淵累生。
陰謀が渦巻く“骸砦”では冷静さが際立つ役回りだが、今作最後に見せた人間味あふれる表情が筆舌しがたいほど素晴らしかった。
中也役・植田とも息の合ったコンビネーションを魅せ、これまでのシリーズで積み上げられてきた太宰の魅力をそのままに、さらなる奥深さをキャラクターに与えている。
今作ではフョードル役・岸本、澁澤役・村田との“超人同士の騙し合い”を見事に演じきっている。
初登場はまだまだ続く。
謎多き男、フョードル・D役に挑んだのは岸本勇太。
フョードルは今作で超越的な策謀を企てる“魔人”。岸本が舞台に登場するたびに凍てつくような緊張感が漂い、空気がぐっと引き締まる。
初登場とは思えぬほど場を支配しており、狡猾なフョードルをすっかり自分のものにした岸本。
また、クライマックスに向け盛り上がる中、アンサンブルと魅せるダンスシーンにも注目だ。
そして圧倒的な存在感を示したのが、澁澤役の村田充だ。
今作ではこの世の全てに退屈を覚え、異常なまでに命の輝きに執着し、歓喜する澁澤。
その気味の悪さを表情や立ち姿で表現しながらも、刹那的な美しさや寂しさも同時に醸し出す。
澁澤という得体のしれない人物を見事に怪演し、人目を奪った。
その澁澤と鳥越演じる敦のバトルは今作のクライマックス。
澁澤の、まさしく“人間を超えた”超然たる振る舞いと、真っ向から対立する敦の「あがき、まよい、さけぶ」姿は、ぜひその目でご覧いただきたい。