ラーメンのすすり方だけで、気持ちが伝わってきた

松坂桃李&広瀬すず 撮影:友野雄

同じまほろば診療所のチームとして働く野呂と麻世。次第にふたりの間には同志のような、家族愛のような、不思議な絆が芽生えていく。ふたりが中華料理店で食事をするシーンは、本作の中でも特に印象的な場面だ。

「あそこだけちょっと違った撮り方をしていて。ほとんどカメラ目線だったんですよね」(松坂)

「だから撮影のときは、カメラの奥にちょこっとだけ松坂さんが見えているんです(笑)」(広瀬)

「ちょっとだけね。片目だけ見えるみたいな(笑)」(松坂)

「その分、見えてる目から感情を読み取ろうとして、すごい見ちゃいました(笑)。松坂さんの目から野呂の気持ちが伝わってくるんです。伝わりすぎて、思わず目を逸らしたくなりそうでしたね」(広瀬)

広瀬すず 撮影:友野雄

「ふたりにとってすごく大事なシーンだったので。現場に入ったときは、こういう撮り方するんだって、ちょっと緊張していました」(松坂)

「そうだったんですか」(広瀬)

「きっと野呂と麻世の間にあるものって枠にはめようとするとつまらないというか。観ている方に『そういう感じね』と思われるのも違うなと。だから、あえて明確にしないでおきたかった。曖昧な方が人によって受け止め方が変わるかなと思って、この感じは何だろうというって自分でもはっきりしないまま演じていたのは覚えています」(松坂)

「あそこで麻世は自分の話をするんですけど、何を言っても野呂っちはちゃんと受け止めてくれて、自分と同じ気持ちになってくれているというのが、ラーメンのすすり方だけで伝わってきたんです。何て言うんだろう。自分とおんなじ量で進んでいるのが、松坂さんのラーメンをすする音から感じ取れたというか。そうやって言葉に表せないものを共有できたのは、すごくうれしかったです」(広瀬)

松坂桃李 撮影:友野雄

撮影の合間には、子役・佐々木みゆとの触れ合いも

在宅医療の現場に立ちながら、人間として、医療従事者として、成長していく野呂と麻世。中でも大きな出会いとなったのが、佐々木みゆ演じる小児癌患者の萌だ。

是枝裕和監督の『万引き家族』で一躍名子役として脚光を浴びた佐々木は、今作でも忘れがたい存在感を示している。

「海辺のシーンでは一緒に貝殻を拾ったりしていました。あと、瓶に色がついたジェルをもらったんですけど。『ありがとう』と言いつつ、いまだに何に使うものなのかわかっていません(笑)」(松坂)

「みゆちゃんがよく『写真撮ろう』って言ってきてくれて。ふたりで撮った写真をいつもみゆちゃんが是枝さんに送っているんです。それが今度はそのまま是枝さんから私に送られてくるっていう謎のやりとりがありました(笑)」(広瀬)

「すごい。あの年齢でもうそんな感じなんだ!?」(松坂)

「そういう大人っぽいところもありつつ、子どもらしい部分もあって。でも、お芝居に入ると、全然違う顔になる。本当にすごい子だなって思いました」(広瀬)

『いのちの停車場』 © 2021「いのちの停車場」製作委員会