■『暗殺教室』と『ONE PIECE』――その相違点と共通点

集英社が『暗殺教室』を強くプッシュしていて、事実、人気も売れ行きも期待以上。とすれば気になるのは、この作品が少年ジャンプの看板漫画になれるかどうかだ。コアな漫画読みが多いネット界隈の意見を集めてみると、その点に関しては否定的なコメントが目立つ気がする。これには記者もおおむね同意見。ジャンプ漫画に限ったことではなく、人気が出る→出版社が大規模にプロモーション→ピークが過ぎても連載を終わらせてもらえない→無駄な引き延ばしが続く→ファンが落胆……といったケースは非常に多い。誰しも好きだった漫画が水増しされスカスカの中身になっていくのは見たくないものだ。

また、そもそも『暗殺教室』と『ONE PIECE』ではタイプがまったく異なる。王道ド真ん中な『ONE PIECE』は野球にたとえると超豪速球のピッチャーだ。対して『暗殺教室』は多彩な変化球で相手を翻弄する技巧派ピッチャー。パッと見た感じの第一印象は正反対だ。なので『ONE PIECE』ファンがそのまま『暗殺教室』も支持するとは考えにくい。

印象という意味では作品のタイトルも重要。イケメン社会人が合コンの席で“『ONE PIECE』読んでますよ”と言えば好印象だろうが、“『暗殺教室』好きだなぁ”と言えば内容を知らない人はドン引きしかねない。当然このあたりのイメージ問題は連載前、正式タイトルを付けるときに編集者と作者が話しあっただろうし、その上で『暗殺教室』という物騒なタイトルにゴーサインが出たのであれば「あえてトップは狙わずコアなファンを引き続き獲得していく」方針だったように思える。

その反面、よく読み込んでみると『暗殺教室』の松井優征氏、『ONE PIECE』の尾田栄一郎氏には似ている部分もある。小気味よいギャグのテンポ、愉快痛快なシーンと悲惨なシーンを巧みに描き分けられる作画スキル、そして何より物語の“構成力”の高さだ。『ONE PIECE』には複数巻にまたがって張り巡らされた伏線が多く、あとになって「あのシーンはここに繋がっていたのか!」と驚かされることが多々ある。松井氏の前作『魔人探偵脳噛ネウロ』も知名度ではやや譲るが、構成力では一歩も引けをとっていない。

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彼の飛び抜けた構成力を示すエピソードは『脳噛ネウロ』の最終巻、あとがきで読むことができる。読者アンケートの結果次第で打ち切りも多い少年ジャンプで連載開始するにあたり、松井氏は「責任をもって作品を終わらせるため」にあらかじめ“1、2、3、7、10巻用のストーリープラン”を作っていたという。

結果としては人気が継続したため最長の20巻プラン(実際には23巻まで出た)で理想的な終わり方を迎えられたそうだが、初連載の新人作家が、しかも少年ジャンプで描くというプレッシャーを抱えながら、複数のストーリープランを別個に練っていたというのは並の才能じゃない。

実際に『脳噛ネウロ』を読んでみても作者が構成に気を配っているところは随所に見られ、完結から3年経った今でも「うわ、6巻のあのネウロのセリフは、11巻のこのセリフに繋がってたのか!」など読み返すたびに新しい発見がある。

ここしばらく週刊少年ジャンプでは、主力作品『ONE PIECE』『NARUTO』『BLEACH』などが軒並み50巻を超える長期連載になってきたのを踏まえ、編集部側が『トリコ』『黒子のバスケ』といった次期主力候補を模索する動きが感じられている。『暗殺教室』がそれらに加わり、『ONE PIECE』を継ぐ存在となるかどうかは誰にも分からない。だがいずれにせよ作者の松井氏には、変に読者へ媚びたりせず、本人が終わらせたいと思う瞬間まで才能をフルに発揮して、私たちを楽しませ、驚かせ、泣かせ続けてほしいものだと願う。


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【関連リンク】
集英社マンガネット『暗殺教室 1巻 試し読み』
[ https://www.s-manga.net/comics_new/cn_20121102_wj_jpc_9784088705965_ansatsu-kyoshitsu-1k_uzK2tnLY.html ]

パソコン誌の編集者を経てフリーランス。執筆範囲はエンタメから法律、IT、教育、裏社会、ソシャゲまで硬軟いろいろ。最近の関心はダイエット、アンチエイジング。ねこだいすき。