崎山つばさ 撮影:源賀津己

――『SLANG』も『ID』も、テーマとして扱っているのは目に見える物質ではなく、言葉やアイデンティティという実態を持たないもの。演じる皆さんにとって難しさを伴うテーマじゃないかなと思うんですが。

崎山 やあ、難しいです(笑)。脚本を読むと謎解きみたいな感覚にもなりますけど、逆に今まで感じたことのない衝動というか、新しい感情が生まれている感覚もあって。

最初の時点で感情がテーマになっていることを強く感じましたし、そこからいろんな稽古をしていくうちに、最初に本読みをしたときとはまたイメージが変わるだろうし、そういうことに敏感に反応しながらやりたいなという気持ちが強いですね。その日その日で感情が常に違うだろうし、家に持って帰るときの感情も全部違うんじゃないかなって。

今まで過ごしてきた中でここまで感情にフォーカスすることはなかったけど、「自分ってこういうことで喜ぶんだ」とか「こういうことでちょっと嫌悪するんだ」とか、そういうことにも目を向ける初めての機会という気がしますね。

――より自分と向き合う期間でもあると。

崎山 そうですね。お客さんに届けるために、まず自分が噛み砕いてそれを伝えていかなければならないし、それを初めてお客さんが観たときに全員に伝わるとは……伝わってほしいけど、でもさっきも高橋さんがおっしゃったように1割に伝わればいいなという気持ちもすごくあるし。

たぶん、お客さんの中には非常に舞台に飢えている方も多いと思うので、逆にこれくらい難しい方が持ち帰って自分で解釈する時間が楽しくなるんだろうなって気持ちもあるので、自分がこの脚本を初めて読んだときと感じたような感情を一緒に楽しんでもらいたいです。

高橋 こういう時代だからこそ、希望があるものやハッピーなもので救われたいと思う方もいるでしょうけど、一方で作劇だからこそ現実より酷いものや落ち込むもの、絶望を感じるものを味わったゆえに、「今はそんなに悪くないな」と思えることもあったりしますし。とにかく現実離れしたものをみんなに感じてほしいので、ぶつけていきたいなと思いますね。

マイペースな人たちが揃ったカンパニー

高橋悠也(左)と崎山つばさ(右) 撮影:源賀津己

――これから本格的な稽古に入るわけですが、今日の本読みの時点で他の共演者さんを含む今回のカンパニーの雰囲気を、おふたりはどう感じていますか?

高橋 『SLANG』との比較でもあるんですけど、今回は非常にマイペースな人たちが揃っているという印象があります。

崎山 確かにそうですね(笑)。

高橋 みんないい人ですし。もちろん『SLANG』のときもみんないい人でしたけど、もっとギラギラしていた印象があったんです。今回もやる気に満ちている方々だと思うんですけど、そのやる気を内に秘めているタイプの人たちが揃っているみたいなので、稽古が始まってどう化けるのか楽しみですね。

崎山 確かに。松田凌くんと初めて会ったときに、すごくパッションという言葉が合う人だなと思いましたし、松田くん含めそういう高橋さんの言う“内に秘めた情熱”タイプの方が多いような。稽古場で学んだことを自分で一度持ち帰って、自分なりに解釈してそれを稽古場で出していくみたいな。

自分がそういうタイプなんですけど、同じようなタイプの人が多いのかなとちょっと思いました。あと、僕は皆さん初めましてなので、それもそれでまた新鮮ですし。

――ここからどんどん距離を縮めて関係を築き上げていくことで、千秋楽にはどんな舞台が展開されているのか。予想がまったくつかないですよね。

崎山 千秋楽が本当にゴールなのかというところもありますし。まだ続きかもしれませんし、ちょっとどうなるか読めませんよね(笑)。

高橋 役者の皆さんの力でもっと良くなっていって、当初のものから全然別モノになってくかもしれませんし。台本の意図していない感情が本番で溢れてしまう回があってもいい作品だと思うので、そういうことも含めて面白いんじゃないかと思います。

――そういう思いもしない感情を生み出しそうな物語ですものね。高橋さんが崎山さんに、主演として期待していることはありますか?

高橋悠也(右)と崎山つばさ(左) 撮影:源賀津己

高橋 こうやってお会いするとすごく穏やかで優しくて、懐の広い自由な人で、アバターの役はわりと素に近い感じなのかなと。生徒会長の方はやりようによってはいくらでも化けられるし、逆に言うと今こうやって見える彼の雰囲気にないものをほじくり出さないといけない役だと思っているので、とことん壊れてほしいなと(笑)。

崎山 あはははは。いやあ、壊れたいです!(笑)

高橋 本人も「あまり怒ることがない」と言っていたんですけど、稽古中に1回ぐらいマジギレすることがあってもいいのかなと(笑)。それがいい意味で、お互いの信頼関係と作品に対する熱量に転化していくようなことがあれば、さらに楽しめるんじゃないかと思います。

崎山 本当にありがたいです。役者にとっては自分にないものや新しく手に入れる武器って、その場に行かないともらえないし、もらえるかどうかも分からないけど、だからこそやってみる価値が必ずあると思っていて。そういう意味では自分自身で実験しているような感覚でもあるので、その実験が無事成功したらいいな(笑)。