宮本浩次が本格的にソロ活動をスタートさせた2019年。その年、宮本の誕生日である6月12日に初のソロライブを行なって以来、3年連続で宮本浩次のバースデーライブは行われている。3回目となる今年は、初めてバンドセットでのコンサートとなり、会場となった東京ガーデンシアターにシンガー宮本浩次の歌声が響き渡った。『宮本浩次縦横無尽』と題された今年のバースデーソロコンサート。その歌は時に繊細に、時に力強く、終始オーディエンスの心を激しく揺さぶった。終演後にもその余韻がなかなか消えずにいる。素晴らしいメンバーたちが織りなすバンドサウンドに後押しされながら、宮本の歌はまさに縦横無尽で、聴く者に様々な感情を呼び起こさせた。
宮本が表現する歌世界を見事なバンドサウンドで彩ったメンバーは、名越由貴夫(Guitar)、玉田豊夢(Drums)、キタダ マキ(Bass)、そしてバンマスの小林武史(Key)。小林と名越は初シングル『冬の花』から、玉田は『P.S. I love you』から、そして最新アルバム『ROMANCE』ではキタダも迎え入れ、今回のメンバー4人が揃ってレコーディングに参加した。言わば宮本の音楽の良き理解者であり、盟友とも言える存在のメンバーたち。その盤石なバンドサウンドを後ろ盾にし、この日の宮本の姿は歌うことの喜びに溢れていた。そしてフレッシュな衝動に満ちていた。
2年前、初のソロライブは、恵比寿リキッドルームという、宮本浩次がライブを行うにしてはキャパの小さなライブハウスが会場に選ばれた。まだソロとしての楽曲は少なかったが、エレカシの楽曲も含め、ひとりステージに立って弾き語りで表現する宮本の歌は、バンドとは違った凄みと引力で観客を圧倒し、魅了した。翌2020年は、コロナ禍で迎えるバースデーだった。そのため、無観客の配信コンサートという形ではあったが、ソロとしての1stアルバム『宮本、独歩。』の楽曲をすべて弾き語りのライブ演奏で披露し、シンガーソングライター宮本浩次は、また新たな試みで歌を届けてくれた。
そして迎えた今回は、有観客で(会場キャパの半数以下に動員は抑えられていたが)、加えて生配信も行うという、また新たなスタイルでのコンサートとなった。そして、昨年11月にリリースした『ROMANCE』を携えてのコンサートでもある。この、女性歌手が歌う名曲の並ぶカヴァーアルバムに収録された楽曲たちが、今回のコンサートでどのように披露されるかも、大きな期待のひとつだった。1970年代の日本の歌謡曲にある叙情的なメロディが、宮本の歌唱によってどのような景色を生み出していったのかは、後述することにして──。
ライブは、薄暗い夜の闇の中、宮本がランタンを片手に登場するところから始まる。紗幕の向こう、オーガニックなバンドサウンドが響いて、宮本の力強く伸びやかな歌声が重なる。徐々に開けていく空と大地をイメージさせるスクリーン映像とライティング。「夜明けのうた」が、この日のオープニングを、そして宮本浩次のシンガーとしての真の目覚めを彩るような、そんな壮大な始まりだった。そのスケール感は、続く「異邦人」(久保田早紀のカヴァー)に見事に引き継がれる。哀愁漂うバンドサウンドに艶のあるボーカルが異国の景色を浮かび上がらせ、アウトロのバンドアレンジは、空が崩れ落ちそうな混沌を表す。宮本はそのカオスを身を以て表現する。そして上着を脱ぎ捨てステージ前方に飛び出すと、そこはなんとせり上がりの仕掛けで、宮本が上へ上へと上がっていき、始まったのは「解き放て、我らが新時代」。オーディエンスのハンドクラップだけをバックにラップするパートなど、ラフで自由な空気がとても心地好い。そして「きみに会いたい-Dance with you-」は、TV番組『The Covers』で披露したスペシャルアレンジを踏襲する形で披露された。バンマス小林武史とのピアノとボーカルの応酬からバンドサウンドへと展開し、ブラックミュージックのフィール満載で突き刺さる歌声にゾクゾクする。素晴らしいダンスチューンだった。