ソウルのホットスポット、鍾路3街の大通りの南側を並行する裏通りは「クルポッサム通り」と呼ばれていて、牡蠣が美味しくなる季節には、席の確保が難しいほど繁盛する。
そして、キムチと合わせる食べ物としては究極にして最高峰と言われるのが、エイの刺身だ。
もともとは韓国南西部の全羅道だけで食べられてきたものだが、この十年ほどでローカルフードの全国区化が進み、ソウルや釜山のスーパーに流通したり、専門店が増えたりしている。
体内にアンモニアをたくわえたエイは水揚げされたときから発酵が進むため、独特の匂いと、むせるような揮発性の強い刺激がある。
そのため、刺激物が好きな韓国人でも全羅道以外の人には敬遠されがちだったのだが、最近はその匂いと刺激に慣れた人が増えたのか、以前ほどゲテモノ扱いされなくなった。
キムチとエイと豚肉をつまみにマッコリを飲むことを洪濁三合(ホンタクサマプ)という。洪はエイを表す韓国語「洪魚(ホンオ)」の洪、濁りはマッコリを表す韓国語「濁酒(タクジュ)」の濁、三合はエイと豚肉とキムチのことだ。
全羅道の宴席には欠かせないごちそうで、三合の美味しさがわかるようになれば韓国料理通も一流といってよいだろう。
韓国で流通しているエイは、9割以上がチリなど外国産で占められている。残りの数パーセントは全羅道南部の離島、黒山島辺りで獲れるもので非常に高価だが、外国産でも独特の刺激や旨味はじゅうぶんに味わえる。
もともと全羅道の人に愛されてきた食べ物なので、ソウルでも全羅道の人々が多く住む地域にエイの専門店が多い。
70年代までは漢江の南側エリアの中心地だった永登浦(ヨンドゥンポ)やソウル東部の下町・千戸洞(チョノドン)がその例だ。
10数年前まで韓国に来た日本の旅行者にエイをふるまっても、「チョンさん、これはちょっと無理です」と言われることが多かったが、最近は東京の新大久保や三河島の韓国料理店でも食べられるようになったと聞く。
みなさんにもぜひチャレンジしてもらいたい。
冬支度を終えた母の顔
80年代頃まで、家庭の主婦にとって大事な冬支度のひとつがキムジャンなのだが、もうひとつ大仕事があった。韓国の寒い冬を乗り越えるための燃料の備蓄である。
当時の韓国は台所の火力やオンドルやストーブなどの熱源は練炭に依存していたので、寒くなる前に大量の練炭を確保しておく必要があったのだ。
キムチの甕を地中に埋め、物置を練炭でいっぱいにしたときの母の満足げな顔と、そのたくましい後ろ姿は今も忘れることできない。
(つづく)
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