――子どもを小さい大人と思って対話や議論をすることって、自分も含めて日本人は慣れていないかも……。コツはありますか?

中島さん「例えばいじめや環境についてなど、大人も気になっていることを一緒に話してみるといいと思います。

いかにも!っていう感じでニュースを見ながら話し始めると違和感があるかもしれませんが、自分が気になっていることを問いかけてみるといいかなと。

子どもが言っていることが間違っていると思うときも、ただ『ダメ』というのではなく、ちゃんと議論してみるとか。

例えば、アメリカだと幼稚園生くらいでも『あなた、これどう思う?』とか『どうしてそうしたの?』とか、常に大人から聞かれているんですね。だからふだんから私はこう思う、私は違うと思うとか言えるんです。そういう、問い、問われる経験ってすごく大事。

イエス・ノーの問いというよりも、正解がない、いわゆる記述式の回答ですよね。これからはそういうった“開かれた問い”が大事になってきます。

本当は研究の一番面白いところって、まだ答えがわかっていないことを追求していくこと。100年後には教科書が間違っていたと言われたりするかもしれないんですよ。科学者も数学者も芸術者も、一生涯探求している人たちで、その中でいろいろなものが生まれてきたわけです。

問われ慣れていないと、そういう力は身についていきません。例えば『この学校をどうよくしたい?』と聞かれても生徒は大体、全然うまく答えられない。でも、初めて聞かれたら、大人でもそういうものですよね。

『あなたはどう思いますか?』と聞かれ慣れていると、最初はしょうもないことを言っていてもだんだん本気になるというか、答えられるようになってくるものです。これからは、幼稚園生でもそういうことに答えられる時代になっていくと思います」

――そういう子どもが増えたら、社会の問題も「自分ならどうする?」と自分ゴトにして考えたりして、選挙の投票率もあがりそうです。

中島さん「むしろ、自分も選挙に出てみようかな、という人が増えそうですよね(笑)。

新しいリテラシー、ロボットとかプログラミングとかについては、やはりすごい勢いで進歩しているので、知らないよりは知っていたほうが世界は広がるし面白くなります。

知っておいたほうがいいとは思いますが、ただどちらかというと、まず親も楽しんじゃうことが大事かなと」

――親ですか。

中島さん「今、大人のSTEAM教育もすごく大事だと思っていて。親も『あなたはどうしたい?』って問われた経験は少ないと思うんですよ。同時に、自分がそれを表現できるとも思っていないというか。

今は表現ツールも広がっているので、自分なりの表現というのが難しくないし、誰でもできてしまう時代です。

嫌いとかできないとか思い込みすぎないで、面白そうだなと思う場があったらやってみる。まず親が試行錯誤して、その喜び、楽しさみたいなものを知ってくると、子どもたちもそういう姿を見て刺激になるし、学びになります。

自分だからできる形があるということを、どこかで知っていることに価値があるということですね」

――なんだかSTEAM教育が広まることで、未来が明るくなる気がしてきました。

中島さん「科学の喜びや数学の喜びをもっと知ってもらいたいなと思います。知っている子たちはもちろん知っているんだけど、喜びというよりはできる・できないということが重視されがちなので。

どれもこれも、夢中になれる子はできるから夢中になるんじゃなくて、面白いから夢中になれているんです。どの分野も面白くて、今まではその専門性が分かれていたんだけれど、これからの時代はそれがつながり合うことによって新しい価値が生まれていく。

楽しいイメージでSTEAM教育が広まっていけばいいですし、あとは肩肘はらずに、自分たちなりのSTEAM教育を作っていくのがいいのかなと思います」

STEAM教育とは、「the way of learning」であり、「the way of living」、つまり学び方だけではなく、生き方そのものであると言う人もいるそう。前向きで明るい未来を感じられるSTEAM教育、ぜひ気軽に日常生活にも取り入れてみませんか?

取材協力:中島さち子さん

(株)steAm 代表取締役社長、(株)STEAM Sports Laboratory 取締役、ジャズピアニスト、数学研究者、STEAM 教育者、メディアアーティスト、大阪・関西万博テーマ事業プロデューサー(「いのちを高める」)、内閣府STEM Girls Ambassador

現在は主に音楽・数学・STEAM(教育)・メディアアートなどの世界で、国内外にて多彩に活動。

ニューヨーク大学Tisch School of the Arts, ITP(Interactive Telecommunications Program)修士。国際数学オリンピック金メダリスト。四国大学特任教授・明治大学先端数理科学インスティテュート(MIMS)/東京理科大学客員研究員。文部科学省中央教育審議会初等中等教育分科会教育課程部会委員。経済産業省産業構造審議会臨時委員、教育イノベーション小委員会委員。

経済産業省「未来の教室」実証プロジェクトにも多数携わる。米日財団日米リーダーシッププログラムフェロー。フルブライター。主な著書に『人生を変える「数学」そして「音楽」』『音楽から聴こえる数学』(講談社)絵本『タイショウ星人のふしぎな絵』(絵:くすはらじゅんこ、文研出版)他、主なCDに中島さち子PianoTRIO ”Rejoice” “希望の花”他。

エディター&ライター。エンタメ誌などの編集を経て、出産を期にライターに。ミーハー精神は衰えないものの、育児に追われて大好きなテレビドラマのチェックもままならず、寝かしつけたあとにちょこちょこと読むLINE漫画で心を満たす日々。