人生で初めてあんなに罵倒されました(笑)
――飯塚花笑監督はどんな方ですか?
普段はすごく明るくて愉快で、気さくに冗談を言うこともできるんですけど、芝居のことになると人が変わるというか。スイッチがバチンと入るとめっちゃ怖かったです。僕、人生で初めてあんなに罵倒されました(笑)。
ユイに自分のことを打ち明ける大事なシーンで。撮影期間の前半に撮ったこともあってまだ僕自身もチューニングができていない状態だったんです。
撮影はほぼ物語が進む順番で撮っていたんですけど、最初に出てくる重要なシーンだったのでかなりハードでしたね。何十回は撮りました。
監督の中にこうしたい、という画が明確にあって、僕の中にもあったんですけど、それが違う方向を向いていたことが大きくて。それを徐々に近づけていって監督の求めるものにハマるまでに時間がかかりました。
事前にアクティングコーチをつけてもらって、自分の中のコンプレックスみたいなものを思い起こす作業はやってきていたんですけど、本番で僕がそこまでいけなかったという。
――でも序盤で大きなものを乗り越えられると、その先が少し楽なるとか。
まさにそうでした。初めの方にやれて良かったなって本当に思いました。僕自身、そこからスイッチが入ったというか、「真也ってこういう人間なんだ」というのがつかめた感じはありました。
そのあとも、監督とは毎日のように「ここはこうじゃない?」とか、「俺はこう思う」とか、話し合いながら作っていくことができて。それによって変わったシーンもありましたね。
終盤、喫茶店での真也とユイと俊平(松永拓野)のシーンは、一回、台本のセリフを忘れて話の流れだけを決めて、あとは3人でエチュードみたいな感じでやって。
撮影期間の最後の方だったので、みんな役の気持ちが入っていたのもあってすごくいい化学反応を起こせたんじゃないかと思っています。
――坂東さんは真也をどんな人だと感じていましたか?
感情をあまり外に出さない人ですよね。口数も少ないし、おじいちゃんみたいな人だな、と。ただそれがユイと出会うことによって変わったのかな、と思っていて。
映画では描かれてはいないですけど、真也は自分の性の違和感に気付いた瞬間からものすごく大変な思いをしてきたと思うんです。今は母親には理解してもらっていますけど、そうじゃない時期もあっただろうし。
いろんな人から差別的なことを言われるとか、ある意味、自分というものを肯定しきれない部分がある中で、それでもその壁を乗り越えて自分を貫いていくって決めて。だからこそ、ホルモン注射を打つとか、手術をするという選択に踏み出していくんだと思うし。
そう考えると、この映画の始まりの頃の真也って微妙な状態だと思うんです。恋に落ちる前の真也は影があって悩みを抱えている。けど、ユイと出会って、恋に落ちて、愛を育んで、自分のことを告白する。そこからは目に光が通っていくような感じがありました。