実際に生理用ナプキンを買いに行ってみたりもして。すごく恥ずかしくて。

撮影/山口真由子

――撮影は2年前だったそうですが、その頃と比べると日本でのLGBTQへの意識にも変化が出てきたので、より伝えられることが増えているかもしれないですね。

オリンピックがあったりもして、2年前と比べると社会の捉え方とか、みんなの興味とかも変わってきてると思うんです。(公開まで)時間はかかってしまいましたけど、今、このタイミングで公開できるのはすごく良いなって思っています。

あとは、僕が演じたのがFtM(女性として生まれたものの、自分は男性だと認識している人)で、MtF(男性として生まれたものの、自分は女性だと認識している人)の話は『ミッドナイトスワン』(2020年公開)とか、これまでもあったと思うんですけど、前例があまりないのも良いなって思いました。

撮影/山口真由子

――ただ、男性の坂東さんがFtMを演じるのはすごく難しいことなんじゃないかと思いました。自分に元からあるものを無くしたいとか、変えたいという感情は、コンプレックスとか、多かれ少なかれ誰にでもあるとも思うのですが、ないものをあると想定して演じるってどんな感覚なんだろう、と。

演じる上でとにかく嘘にはしたくない、という想いがあって。真也と同じような想いを抱えている方に対して失礼になるようなことは絶対にできないと。

責任感を持って演じなければいけない役だと作品に入る前から強く思っていたので、自分にやれることは全部やろうって決めて、できる限りのことをやってみました。

僕自身は男の体で生まれて男の感情がありますけど、その状態に例えばおっぱいがついていたとしたら、それはキツイなって思ったんです。

そういうところから考え始めて、実際に生理用ナプキンを買いに行ってみたりもして。僕は明らかに見た目も男ですし、感情も男ですからすごく恥ずかしくて。

彼女に買いに行かされてるふうを装って、電話しているふりをしながら買いました。あとはブラジャーをつけて生活してみて、周りの目がすごく気になるな、とか。

そういうふうに頭で考えるよりも、実際に体験して自分の中に真也が抱えている葛藤とか、コンプレックスを落とし込んでいくようにしました。

特にセックスを拒んだり、自分が女性の体であることをユイに打ち明けたりするシーンは、極力真也の気持ちや体のことを理解した上で演じたいと思っていたので。

好きな人に嫌われてしまうかも知れない、という想いを抱えながら、自分が一番コンプレックスに思っていることを打ち明ける勇気は並大抵のことではないと思いましたし。

幸い撮影に入る前に1ヵ月くらい準備期間があったので、監督と片山さんと3人でディスカッションをしたり、監督と2人だけで飲みながら話をしたり。あとはトランスジェンダーの方がいらっしゃってるバーに連れて行ってもらったりもしました。

そこでいろんな深い話ができていたのが良かったですね。撮影自体は約10年間の出来事を描くのに一週間くらいしかなかったので、始まったらもう怒涛で(苦笑)。ちゃんと準備ができていたことが役立ちました。