普通でいたいってすごく思う

撮影/山口真由子

――観る側への問いかけが本当に多い作品でした。

たぶんこれを観たら何かが変わると思います。どんなふうに変わるかはわからないですけど、何にしても新しく知ることって大事だと思うんです。知らないことほど怖いことはないし、知って損することはないですから。

これまで僕のことを『弱虫ペダル』とか、『ハニーレモンソーダ』とかのキラキラした青春を描いたような作品で知ってくださった方にも、ぜひこの作品は観てほしいです。

特に、僕よりも下の年齢層の方が観てくれて、世の中の問題に対して耳を傾けてくれる人が増えたらいいなって思います。

コロナ禍もあって、悶々とした時間を過ごした人は多いと思うんです。僕自身、最初の緊急事態宣言が出たときは何をしていたかあまり記憶がないくらいですから。

社会が変わったタイミングで、僕が2年前にしていたことが、今、こうやって観ていただけるのも意味があることだな、と思っています。

撮影/山口真由子

――最後に作品のタイトルにちなんで、“フタリノセカイ”ではなく、今、坂東さんが“ヒトリノセカイ”のときに大切にしているものを教えてください。

難しいな(苦笑)。「役者ぶってんじゃなねーよ」って思われそうなんですけど、最近特に、普通でいたいってすごく思うんです。

僕は役者をやらせていただいていますけど、結局、普通の人間だし、演じる役も普通の人間を演じることが多いじゃないですか。

――でも、普通と言っても、普通って何?っていうのもありませんか。

そうなんです、難しいんです。だから逆に特別じゃない、というふうに考えたらいいんじゃないかなって。

このお仕事をしていると、すごくありがたいことなんですけど、街中で「坂東くんですよね?」って話しかけられたりすることもあって。そうすると自分のことを特別というか、人と違うかのように勘違いしてしまう。

でも全然特別じゃないし、僕は極力普通でいたんですよね。それはひとりでいるときに限らずですけど。だって自分が特別だなんて思っていたら、普通の役をリアリティを持って演じられないと思うんです。なので、極力ひっそり生きていけたらいいなって思っています(笑)。

――ただ、周りから声をかけられる状況は変わらないし、やっぱり普通じゃないことだとは思うんですよね。

確かにそうなんです。知ってくださる方が増えるほど、自分が違うと思う感覚に陥る瞬間は増えるし。

だから、自分の保ち方って難しいけどすごく大事だな、と。そこをコントロールしないといけないな、と思っています。簡単に答えが出るようなことではないとは思っていますけど。

ただそうやって考えることが大事だと思うし、考えないよりは考えた方がいいとは思うんです。だから疲れちゃうけど、これからも考えます(笑)。

撮影/山口真由子


どんな質問にも一つひとつ丁寧に、真剣に答えてくれた坂東さん。「僕のことを知っている人、みんなに観てほしい」と笑いながら話してはいましたが、この物語をできるだけ多くの方に届けたいという強い思いが伝わってきました。

LGBTQが抱える問題と真正面から向き合っている作品ですが、坂東さんの言うように、この先の未来を変えていけるきっかけになれる作品だと思います。ぜひ劇場で自分自身に問いかけながらご覧になっていただきたいです。

ヘアメイク/浅井美智恵

作品紹介

映画『フタリノセカイ』
2022年1月14日(金)全国ロードショー