PFFアワードは“才能に出会える”場

今年のPFFアワード全16作品

しんのすけ まさに“才能に出会える”場としての魅力が、PFFアワードにはありますよね。数多くの監督を輩出した歴史もあるし、会場に足を運ぶファンの中にも「自分も新しい才能を応援したい」という、ある種の“推し活”が楽しみ方のジャンルにもなっている。そうやって、映画祭を支えるファンの存在は確かにありますよね。

荒木 去年、エンタテインメント賞(ホリプロ賞)と映画ファン賞(ぴあニスト賞)をダブル受賞した『愛ちゃん物語♥』や、観客賞の『距ててて』は、まさにそうかも。

しんのすけ そういう出会いって、一般的な商業映画ではなかなか生まれない感覚ですよね。

荒木 でも、今は映画制作を取り巻く環境もどんどん厳しくなっているでしょ? どういう映画祭でなければいけないのか。それを考えることが、いつの間にか仕事になっている面もあって。

映画って、音楽や小説と違って、成果が見えづらいし、成功したと認められるプロセスも違う。いわば、最も不安な仕事なんですよ、映画監督って。それでも「映画を作っていいんだ」と思ってもらえるよう、監督たちにどうやって寄与できるか。なにか力を貸せないかと考える。

それ以外のこと……、例えば、映画祭を大きくするとか、そういうことは目標ではないし、考えてもいないんです。強いて言えば、作ったものを、ちゃんと誰かに観てもらえるということだけが役割なのかなって。

しんのすけ コロナ禍もあって、みんなが同じ空間に集まるということの価値が、今まで以上に大きなものにもなっていますもんね。スクリーンで上映されて、誰かの反応が返ってくるという感覚は、確実に作家のテンションに直結するし、次回作を作ろうと思えるはず。PFFアワードに応募すれば、その可能性があるわけですから。

大切なきっかけ作り。でも「選ぶのって、本当に難しい」

荒木啓子ディレクター 写真:内田涼

しんのすけ TikTokで映画を紹介していて思うんですが、今はある種のお墨付きというか、レコメンドがないと、お客さんも映画を観ようって気持ちにならない。きっかけ作りがすごく大切で。

荒木 映画祭で言えば、(賞に)選ばれた作品の方が、観る側にとっても安心感がある。PFFアワードという形でコンペが始まったのは、1988年のこと。それまでは、例えば、大島渚や寺山修司、大林宣彦といった人たちが「おれはこれを推す」という作品をただ上映していたけど、応募者から「コンペにしてほしい」という声があがり、始まったそうです。

ただ、大切にしないといけないのは、応募者全員に「参加して良かった」と思ってもらうことで。賞を受賞すれば注目を浴びるのはもちろんだけど、じゃあ、賞に漏れた作品がダメなのかって言えば、もちろん、そんなことはなくて。

しんのすけ 僕も毎週、どの作品を紹介するのか? そのチョイスによって、もしかすると、動画を見てくれている人が、出会うはずだった作品に出会えないこともあるんじゃないかって考えることはよくあります。コンペもそれに近いのかなと。

荒木 それを考えたら、寝られないですよ。(審査する側として)選ぶのって、本当に難しい。受賞作品よりも、選考のボーダーラインにいた作品のことをずっとよく覚えている。そういった作品、そして作った監督たちにチャンスをつかんでもらうためになにができるのかは大きな課題で。

PFFアワードであれば、長編映画の製作を援助する「PFFスカラシップ」というシステムがあって、理想に近づけるように、今も試行錯誤をしているところなんですけどね。それって、映画祭がやることなのかなって、ふと思うこともあるけど(笑)。