9月10日(土)から開催中の「第44回ぴあフィルムフェスティバル2022」(PFF)。
PFFでは毎年、映画を志す人たちに観てほしい映画、対話してほしい人をテーマとした特集上映を行っているが、今年は生誕100周年を迎えるイタリアの鬼才ピエル・パオロ・パゾリーニ監督が登場。この稀有な才能がもたらす、唯一無二の映画体験をぜひとも多くの若い人たちに体験してもらいたい。
そこで今回は若手映画ライターのSYOさんにパゾリーニを初体験していただいた。
SYOさんが選んだパゾリーニ作品とは? パゾリーニ作品を通じてSYOさんが感じたこととは? PFFの荒木ディレクターとともに、その魅力を語りあっていただいた。
“パゾリーニ初体験”のSYOが気になる作品は?
荒木 SYOさんは普段はどういったジャンルの映画をご覧になっているんですか?
SYO 特にジャンルで映画を観ているわけではないですが、仕事柄、どうしても最新の映画を観る機会が多くなってしまうんです。そういう意味ではパゾリーニも名前は知っていたけれど、今まできちんと観たことがなくて。だから今回はいい機会をいただけたと思っています。
――今回は“パゾリーニ初体験”ということで、SYOさんに気になるパゾリーニ作品を選んでいただいたわけですが、どの作品が気になりました?
SYO 『豚小屋』と『ソドムの市』ですね。
荒木 それは極端かも(笑)。割とこの辺の『アッカトーネ』とか『奇跡の丘』とかもいいですよ。
SYO そうですよね。でもその2作品がどうしても気になってしまって(笑)。実は、大学で映画を勉強する機会があって。そこで先生から『ソドムの市』の一部を抜粋して見せてもらった記憶があるんです。ただそのときはパゾリーニというよりも『ソドムの市』という作品が中心で、「ヤバい映画があるぞ!」という形で紹介されていました。
――『豚小屋』はどこが気になったんですか?
SYO タイトルですね。『豚小屋』って、明らかに不穏な話っぽいじゃないですか。不穏な映画が個人的に好きで……(笑)。
荒木 『豚小屋』は傑作ですよ。パゾリーニって知れば知るほど深みが増してくるような映画が多いんで、そこが面白いんですよね。
特に初期の2作品(『アッカトーネ』『マンマ・ローマ』)は完全に文学なんですよ。だからこの2作品を観てから他の作品を観ると、また違う印象があるんで。それは組み合わせとしておすすめですね。
SYO そうなんですよね。今回は結構どぎつい2本をチョイスしちゃったかなと思っているので、パゾリーニ体験をした今は、彼がいかにして『ソドムの市』にたどり着いたのかが気になっています。
荒木 パゾリーニは映画つくりに関しては素人というところから始まっていますからね。特に映画の現場で訓練を受けたわけではないのに、デビュー作の『アッカトーネ』があのクオリティーですから。本当にすごい人ですよ。しかも映画監督としては14年しか活動していない。それであれだけのものを生み出し続けたというのは、どれだけなのかと思いますよ。
「『ソドムの市』を観て感じた“エグ味”は強烈だった」(SYO)
荒木 PFFは大島渚監督と縁が深いんですけど、人を褒めるということのあまりない大島監督が、なぜかパゾリーニのことは面白がっていた。それはなんでだろうと思っていたんですけど、今回いろいろと調べていくうちに、ふたりが似ているからなのかと思いました。
大島渚に比べて高い映画教育を受けているわけではないですし、キャリアも長いわけではないですが、それでもあの短い時間を駆け抜けたパゾリーニという人は、知れば知るほどカッコいいなと思います。
SYO うちは母親が映画好きなので、母親にパゾリーニのことを聞いてみたのですが、けっこうリアルタイムで観ていたみたいで。そのときに言っていたのが、ある種のエグ味はあるけどやっぱり面白いし、笑える部分もある。なんだか残るんだよねということでした。
荒木 いいですね、身近に聞ける人がいるのは。
SYO 僕の映画の師匠はオカンなんです。実家が田舎だったので、映画館が近くに全然なくて。だから小さい頃は昔の作品を含めて、オカンが薦めてくれる映画を観ていました。それこそ『自転車泥棒』とか『モンパルナスの灯』とかも薦められて観ましたし。
うちの両親はふたりともクリエーターなので、「こうなりたいな」みたいな憧れもあって。自分と感性は全く別ですが、両親がいいというものは今でも基本観るようにしています。
荒木 映画関係の人って、ご両親のどちらかが映画が好きという人が多いんですよね。
SYO そういう意味ではすごく環境に恵まれていたなと思います。
荒木 それで『ソドムの市』を観たときはどうだったんですか?
SYO 最近だと『哭悲 THE SADNESS』という強烈な台湾映画があって。ここ数年で、久しぶりに途中で観るのをやめたくなるような映画だったのですが、観始めた最初はその感覚を少し思い出しました。でも、映画を観て感じたエグ味は『ソドムの市』の方が比べ物にならないくらい強くて(笑)。
それはきっと画がすごく美しくて、しかも引きの画で撮られている分、異常性に引いた目線――客観性を感じたから。「怖いものですよ」と見せ物にするのではなく、異常性を当たり前のように描いている。話は通じるけど理解は絶対にできないような、真の意味で怖い人たちに出会ってしまった……と震えました。