是政はスーパーマン、政子はジャンヌ・ダルク

黒木華

──先ほど、黒木さんがおっしゃっていた「政子にないものを是政が持っていて、是政にないものを政子が持っている」をもっと具体的にするなら?

片桐 「この街に住む人が不満に感じている交通の利便性は、自分がなんとかする!」みたいなリーダーシップや当事者意識は、政子にはないよね。そこまで背負っていない。

黒木 政子もそう思ってはいるんだけど、もう少し現実的ですよね。ちょっと冷めているといいますか、「助けられない人もいるでしょ」と突き放すところがある。ものごとを俯瞰的にとらえる癖がありますよね。

──でも是政には、そういう客観性がほとんどないんですね。

黒木 そうなんですよね。まっすぐバカ正直に突っ走って、斜に構える妹のことも「そういうところも含めてお前を全肯定するよ」ってタイプ。それってすごいパワーじゃないですか。並大抵の人にはできないと思うんです。さっき片桐さんから「政子はジャンヌ・ダルク」と言っていただきましたが、是政は鋼のメンタルのスーパーマンだなって。

──片桐さん演じる柳も、兄と一緒に突き進む政子ジャンヌを大切に想っている描写が見受けられます。どんな人物と考えて演じていらっしゃいますか?

片桐 最近になって気付いたんですけど、政子ってまだ「佐竹」のままで「柳」の姓を名乗っていないんですよね。だから一緒に暮らしてはいるけど入籍していないんじゃないかな。事実婚なのかもしれないし、戦後の混乱で戸籍自体がないのかもしれないけど。

政子を自分のものにしたい気持ちはありながらも、手が出せない……というか強く出られないのは、是政が自分のできないリーダーを買って出てくれているからなのかな、と。彼に対する嫉妬と尊敬の気持ちがないまぜになっているんじゃないかと思いました。他力本願なんです、柳は。

──是政にも言われていますよね。「毎日、愚痴や文句は言うくせに、何も変えようとしないのは、意外と今の暮らしと自分が好きなんですね」って。

片桐 そうそう。「こんな現状イヤだ」と思いつつ、「これはこれで」って楽しめちゃう人なんですよね。とっても日本人的というか。現状に不満はあるけど、それを変えるほどのエネルギーはない。あと矢面に立ちたくないし、責任を取りたくない。……僕もそういうとこあるんでね。旅行の計画とか絶対にしたくないくせに、あとで妻に文句言うんだよ。

黒木 え、やだ!(笑)

片桐 でも、政子は「私は私が嫌いだから、一瞬でもこのままでいるなんて我慢がならない」って突き進むでしょう? ジャンヌ・ダルク、高潔でまぶしいんだよね。是政を含めた環境を歯がゆいとは思いつつも「ま、こういう関係だから」って受け入れて、なぁなぁにしている。

波風を立てようとしないのって、とても日本人っぽいですよね。結果、プラスでもマイナスでもない「ゼロこそよし」とする人なんだと思います。プラスでもマイナスでもいいから、とにかく「ゼロから離れて生きていたい」政子とは正反対なんですよね。

──福原さんの当て書きなんでしょうか?

片桐 当て書きだと思いますね(笑)。週1でやっているラジオを聞いてくださっているので、僕のこずるい面もご存知でしょうし。自分を棚に上げる能力が卓越しているので、そういうところも脚本に反映されているんじゃないかな(笑)。