福原さんってロマンチストなのかな
──稽古を経て、おふたりは是政・政子兄妹の関係性をどう形容されますか?
片桐 他人の目を気にしない兄妹だよね。
黒木 最近は何でもジャンル分けしようとしますが、いま目の前にいる人がどのジャンルに該当するかなんて関係ないと思うんですよね。その人はその人だし、生きているわけですから。『閃光ばなし』に登場する人たちも同じです。役名は「空き巣」「売春婦」「偽警官」となっていますが、どん詰まりの吹き溜まりに生きている人たちは肩書きや生業、暮らし向きを見て人となりを評価する人はいないんです。
──そうですよね。終盤にも「立ちんぼのヨシコです! 偽警官の山下です! 空き巣の竜史です!」と名前を挙げながら、「こんな顔してるんだよ、俺達は」と権力者に呼びかける是政のセリフがありますね。
片桐 はいはい、ありましたね。
──あのシーン、胸に迫りました。そういう脚本を書く福原さんの魅力を、おふたりはどのように感じていらっしゃいますか?
黒木 台本を読んで「ロマンチストな人なのかな」と感じました。用いる言葉もそうですし、音楽もお好きだし、セリフの語感をすごく大事にしていらっしゃる。演出も細やかで「ここは詰めてください」、「もうちょっとたっぷりやっていいですよ」などとわかりやすく指示してくださいます。
片桐 今回の『閃光ばなし』も、「昭和三部作」シリーズの最終作なんでしょう? 一億総中流になる前の、みんなが貧乏だった時代。そんな昭和30年代だからこそキラキラ輝くものに憧れて、安田くんとタッグを組んで芝居をつくっていたっていうんだから……やっぱりロマンチストだよ。あとセット壊すの好きだよね、福原さんって(笑)。現状打破する勢いや熱みたいなものを感じられるのが、福原作品の魅力だと思うな。
──本作にはアクションもありますしね。黒木さんは、安田さんと歌うシーンも。
黒木 そうなんです。舞台で歌うのは初めてだから緊張していて。
片桐 え、そうなの!? 全然そんな風に見えなかったよ。
黒木 政子が無鉄砲なんで(笑)。
片桐 堂々としたもんですよ。
黒木 そういうときに安田さん、慣れていらっしゃるから「全然大丈夫やで」みたいな感じでドーンと大きく構えていてくださるんですよ。
──お芝居を一緒にしていて、安心して試行錯誤やチャレンジができるお相手なんですね。
黒木 私が何かやったら必ず返してくださるし、その状況を楽しんでくださるので心強いです。私は福原さんとご一緒するのが初めてなので、「大丈夫ですかね?」と不安を打ち明けたら……「まだ時間もあるし、自分の思う通りにやったらええんやで」と答えてくださって。
片桐 優しいね。さすが「昭和三部作」の座長を長いことやってるだけのことはある!
──黒木さんには「踊り」も待ち受けています。
片桐 踊りも得意だもんね? 高校演劇でやってたでしょ?
黒木 やってないです! なんでそんな適当なこと言うんですか!?(笑)。
片桐 え? でも踊りやってたでしょ? 高校演劇で。
一同 (爆笑)。
黒木 やってないです! なんですか、自分だけ楽しくなっちゃって(笑)。
片桐 ダンスじゃなくて「踊り」だもんね。「そんな盆踊りある!?」って二度見するレベルの。
黒木 台本上は「右が東京音頭、左が炭坑節」と書いてありますが……蓋を開けてみたら、そのどちらでもないっていう(笑)。
片桐 コンテンポラリー的な、ちょっと現代舞踊みたいな感じだよね。でもリズムは盆踊りなんです。
──これまで見たことのない黒木さんの姿が拝見できることを楽しみにしています。最後にお客さまにメッセージをお願いします。
黒木 ご覧になった方がパワーを受け取って帰っていただけるお芝居になっています。心配ごとは少しだけ脇に置いてご来場いただけたら、力を抜いて楽しんでもらえると思います。がんばります!
片桐 稽古場でみんなとコミュニケーションを図りながら毎日同じことを積み上げていくと、やがて結晶化するんですよね。それが演劇の魅力だし、他の芸術ジャンルにはないものだと思います。『閃光ばなし』をきっかけに「お芝居っていいな」と思っていただけたらうれしいです。
公演情報
舞台『閃光ばなし』
【東京公演】
2022年10月8日(土)~10月30日(日)
会場:東京建物ブリリアホール