小学校低学年の頃、海外出張から帰ってきた父親が見せてくれる写真に釘付けになったことをよく覚えている。
なかでもとくに感激したのはベネチアの写真だ。
川べりのレンガの小道にベンチがあり、すぐそばに街灯が立っている。
人は写っていないのだが、異国情緒たっぷりのその写真は私のお気に入りで、写真立てに入れて勉強机に飾って眺めていた。いつかかならずこの風景を自分の目で見るのだと思いながら。

初めてのイタリア、ベネチア散歩

あれから40年が過ぎ、ようやくその機会がやってきた。初のヨーロッパ旅行でイタリアは外せない。アイルランドでの興奮が冷めやらぬまま、2時間40分のフライトを経てついにイタリアの地を踏んだ。
ここからは娘と一緒のイタリア旅行。留学でヨーロッパに半年以上暮らし、あちこち旅もしている彼女は心強い味方だ。なんでもスマホでサッと調べて母を誘導してくれる。
ベネチアは狭いと聞いていたがそのとおり。旅行者がまず目指すべきはサン・マルコ寺院という建物があるサン・マルコ広場だ。

ホテルに到着するとすぐに広場を目指した。ホテルのフロントマンに最寄りのバス停から40分歩くと言われてギョッとしたが、彼が「素敵なお散歩になりますよ」と言ったとおり、ベネチアなら1時間でも2時間でも歩けると思った。
延々と続く石畳、花が飾られた出窓、レンガ造りの家に干された洗濯物までが素敵に見える。水辺にある街というだけで、なぜこんなに絵になるのだろう。あこがれていた写真通りの、いや、それ以上の風景が目前に広がっている。


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