サン・マルコ広場に涙する
ベネチアの街はコロナ禍での旅行自粛が解けたヨーロッパの人々であふれかえっていた。
そんな人の波にまみれながら、ついに巨大な寺院と鐘楼がそびえるサン・マルコ広場に到着。
広場のレストランではクラシック音楽の生バンドが演奏していて、まるで映画のワンシーンのような光景に涙した。
旅先で感極まって泣いてしまうなんて自分でも驚いたが、小学生の頃からあこがれていたベネチアの風景に音楽の効果も手伝って、まさに感無量だった。写真や映像では得られない生の体験だからこそだ。
憧れのアーティストのライブに初めて行ったときの感覚にちょっと似ているかもしれない。
観客で埋め尽くされた会場が暗くなり、音楽が流れ、目当ての歌手が舞台に現れた瞬間の高揚感だ。
散々写真やビデオを見ていても、その場に居合わせる感動はまるで別物だ。
スイーツの誘惑とエスプレッソ
イタリアは料理もスイーツも絶品で、アイルランドやイギリスに比べると物価が安い。
そんななかで私が特に気に入ったのがエスプレッソだ。イタリアではそこかしこにスイーツスタンドがあり、ガラス張りのカウンターには日本でもおなじみのティラミスや、映画『ゴッドファーザー』で一躍有名になったカノーリ(筒状の生地にクリームを詰めたもの)など、あらゆるお菓子が並んでいる。
カウンター越しに「エスプレッソ、ウーノ(ひとつ)」と頼むと、デミタスカップと呼ばれる小さなコーヒーカップにほんの少しのエスプレッソが出てくる。イタリアではこれが標準仕様だ。
かつてエスプレッソを見て「なぜこんなに少ない?」と激怒したアメリカ人の笑い話は有名である。
そのまま飲むとのもすごく苦いので、イタリア人はこれに砂糖をたっぷり入れて、サッとかき回して飲む。
砂糖が溶け切ると甘すぎてスイーツと合わないので要注意。
苦いエスプレッソがまろやかになり、ティラミスや甘い菓子パンがぐっと味わい深くなる。
ただ、慣れないと先にエスプレッソを飲み終わってしまい、スイーツを持て余すことになるのでちびちび飲むか、思い切ってダブルを頼むといい。
ちなみに、苦いエスプレッソにミルクを足して飲みやすくしたのがアメリカ生まれのカフェラテだ。
シアトル留学中はそんなことも知らず、カフェラテこそ最強のコーヒードリンクだと信じていた。
ベネチアのカフェでは、長身のイタリア人男性がスイーツを片手に一人デミタスカップを口へ運ぶ姿を目にした。なんだか、台湾で豆花スイーツを食べる男性の一人客のようで微笑ましい。