【社会】社会に存在する事柄を、goodとbadに振り分けていく

まず体験したのは「社会」です。

教室に入ると「good」と「bad」と書かれた丸テーブルがあり、真ん中で青と赤に色分けされています。詳細な進行はここでは明かさないことにします。

参加者は1人ずつテーブルの中央に積まれたカードをめくり、カードに写っている事柄を直感で「good」か「bad」かを判断し、該当するエリアに置いていきます。

写真に写っている事柄は多岐に渡り、じゃんけん、点字ブロック、ラーメンなど、どれも身近なものです。

これって本当に「good」?「bad」? 多様な視点で見つめ直してみる

「good」と「bad」の境界線は人によってさまざま。

例えば、多くの人が「good」に分類しそうな点字ブロックだが、電動車椅子を使うキャストのぐろさんは「自分にとっては、点字ブロックがあるとガタガタして走行しにくい」と理由を説明し、「bad」に分類しました。

他の参加者は「確かにそういうデメリットもあるのか」とハッとした表情を浮かべました。

「カードの写真は、スタッフの声を元に選んでいます。例えばラーメンは「美味しいからgood」と選ぶ人もいるかもしれませんが、手を使って話す手話ユーザーは「ラーメンはのびちゃうので」とbadに分類するかもしれません。

こんな風に、あなたのgoodとわたしのbadを交換することによって360度の景色ができていく感覚を、楽しみながら体験できると思います」(演出助手・Ayanecoさん)

【体育】使える部位が違う「皆が楽しめる体育」って?

次に体験したのは、体育の授業。

参加者は体の部位が書かれたカードを1枚ランダムに引き、それぞれがカードに書かれた部位だけを使えます。

部屋にはボールや風船、お手玉などが用意されており、参加者それぞれ使える体の部位が違う中で、全員が楽しめるスポーツを考えようというものです。

みんなで体育、できるじゃん!

筆者を含め、最初は「どうしたらいいんだろう...」と戸惑っていた参加者たちですが、お手玉を運ぶリレーのような創作競技では大盛り上がりしました。

ランダムに引いたカードの部位でお手玉を運ぶという単純なゲームですが、使える部位がそれぞれ違うからこそ、シンプルな競技でも面白かったりします。

授業の発案者でもあるキャストのぐろさんは、授業を通して「みんなで体育ができる可能性を感じてほしい」と語りました。

「わたしは筋ジストロフィーにかかっており、昨日までできていたことができなくなることがあります。しかし、できないから諦めるのではなくて、違う方法を考えるんです。

そんなふうに、使える部位が限定されていても『みんなで体育できるじゃん!』という可能性を感じてもらえたら嬉しいです」(キャスト・ぐろさん)

(※日本筋ジストロフィー協会によると筋ジストロフィーとは「身体の筋肉が壊れやすく、再生されにくいという症状をもつ、たくさんの疾患の総称。2015年7月から指定難病」)

授業の中盤では、誰かに負担が偏っていないか、みんなが等しく楽しめているかなど、丁寧に話し合いながらルールを変更する場面も。

「共生社会ってこういう話し合いで近づけそうだよね」という声も上がり、みんな深く頷きました。

授業を通して見えてきた、対話が持つ力

プログラムの最後は、キャストと参加者で対話をする時間。授業の感想や、気付いたこと、対話で大切だと思うことを話し合いました。

参加者からは「個人の持つマイノリティ性や属性だけに注目して『〜が不自由だから』と決めつけられると(まさに囚われてる!)、それ以外にもたくさんある自分の個性を無視された気分になるよね」という話や、それらの決めつけは対話によって解消できるかもしれないといった前向きな見解も出ました。

プロデューサーの大橋弘枝さんは「マイノリティへの先入観や偏見は、その人を単純化し『囚われの身』にしてしまっているかもしれません。

リアル対話ゲームを通して囚われているものに気付き、『違い』に興味を持つきっかけになれたら嬉しいです」とイベントに込めた想いを語りました。

本番は学校を“卒業”してから!

今回紹介した授業の他にも、「囚われのキミは、」では耳を使わずに校歌をつくる「音楽」や、目を使わずに触覚で絵を完成させる「美術」などの体験もできます。

授業は毎回組み合わせが変わり、同じ授業でもキャストや参加者によって全く違う内容になるので、何度体験しても新鮮な学びがありそうです。

授業を通して、自分が見えていなかった社会の側面や思い込みにハッとする場面が多々ありました。

最後にはキャストのみなさんとの対話を通して、社会への希望や可能性を見出すこともできました。

でも本番は学校を“卒業”してから!

授業で新たに得た視点を携えて、“学校”の外の世界でも、色々な人と囚われない対話をしていこうと強く思いました。

そういった私たち一人ひとりの細やかな努力の積み重ねで、社会は、世界は、囚われから少しずつ解放されていくはずです。

「マイノリティとマジョリティが交ざり合って対話できる場所はまだまだ貴重です。『囚われのキミは、』は9月10日までの開催ですが、イベントは今後も行っていきます。

たとえば全国にある廃校を活用して、地方への出張授業もできたらいいなとも考えているんです」(プロデューサー・大橋さん)

この貴重な対話の場が守られることを願うとともに、今後の展開にも期待したい。

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「囚われのキミは、」イベント概要

開催期間:2023年7月29日(土)~2023年9月10日(日)
開催場所:東京都港区海岸一丁目10番45号アトレ竹芝シアター棟 1F ダイアログ・ダイバーシティミュージアム「対話の森」
体験時間:約95分
チケット(税込):大人:3,850円/中高生・大学・専門学生・大学院生:2,750円/小学生:1,650円
主催:一般社団法人 ダイアローグ・ジャパン・ソサエティ

旅とゲストハウスと海外エンタメをこよなく愛するライター。主な情報収集分野はジェンダーとセクシュアリティ、ボディポジティブ、セルフラブ、メンタルヘルス、フェムテックなど。いつか憧れの作品に字幕をつけるべく映像翻訳の勉強中。