彰の魅力は「許し」

撮影/コザイリサ

――彰の魅力はどんなところだと思いますか。

「許し」ですかね。それは僕自身、ここ数年を過ごす中で感じたことでもあるのですが、「許し」って本当に能力がないとできないことだと思うんです。余裕があるときはできるけど、たまたま忙しかったり、つらいことがあって許すことができなかったりもする。

あるシーンで仲間の特攻隊員がその当時としては受け入れがたい行動をとるのですが彰は責めないで許すんです。現代人からすると彰の行動はとても正しいことですけど、当時の人たちからするとそれができるのは大変な魅力だと思いました。それは(同じく特攻隊の)石丸(伊藤健太郎)や、寺岡(上川周作)もそうですけど。

物語の中で具体的に描かれてはいませんが、彰にも、石丸や板倉﨑斗亜)、寺岡、加藤(小野塚勇人)がいるから、特攻に出られるという想いもあったと思うんです。「一緒だから行けるよな」っていう男同士の友情みたいなものも。

今の考え方からするとそれもとても愚かですけど、当時はそれをせざるえなかった中その行動を責めずに許せるのはやっぱり彰の魅力だと思います。彰も悔しかったと思うんですけど、それを見せないのは彰の強さですね。

――ご自身と彰に共通点はありましたか。

彰には自分にはないからこそ、目指すべき点があると感じていました。僕はあれほど人のことを思ってできる表情や、掛けられる言葉を持った人間ではないので。彰は自分の想いは差し置いて、目の前にいる人が真っ直ぐ立っていられるように、明日もとりあえず生きてみようと思えるようにしてあげられる。百合を元気づけることも、仲間に対してかける言葉も。

自分が苦しくても「大丈夫」と言ってあげられる。「俺だって苦しいんだ」という想いがあるはずなのに、そこを見せずにニコっと笑ってあげられる。僕だったら感情がすべて表に出てしまうと思ったし、だからこそ、彰という役をやる意味があったのかなとも思いました。

撮影/コザイリサ

――演じる上で意識していたことは?

彰って達観し過ぎているというか、それこそ人間味がないと思うんですけど、そこは今回、僕が敢えてやっていたところで。人間味を見せないお芝居を心がけていました。

そんな彰を見て、百合に「なんでそんなに飄々としていられるの?」「悲しくないの?」「怖くないの?」という想いが沸いて、「このままの状態で行ってほしくない」とかって感じてほしいと思ったんです。そのためにもちょっとミステリアスな人物にしていきました。

僕が最初に出させていただいたコメントで、彰のことを「妖怪のようなイメージ」と表現したのですが、当時もそうですけど、現代でも「あんな人間っている?」というようなイメージがありました。

――具体的な動きで意識したところはありますか。

何事も丁寧にというか、育ちが良く見えるようにはしました。攻撃性がなく、何を言ってもこの人からとげとげしたものが出て来ないというような。そこが百合にとって、いい刺激になればとも思っていました。

©2023「あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。」製作委員会

――そんな水上さんを見た成田洋一監督から、「彰だけ別世界にいるよう」と言われたそうですね。

「彰だけ別世界にいる」というイメージは、成田さんからご提案していただいたことなのか、僕が自分から持ち込んで成田さんにそのように感じていただけたことなのか、記憶が曖昧ではあるんですけど、その言葉は、撮影の途中、わざわざ成田さんが僕に伝えてくださったものなんです。それはすごくうれしかったですね。

彰は仲間と一緒にはいるんですけど、その中でもちょっと浮いているというか。でも、そんな彰を仲間たちは受け入れている。

もしかしたら共演者の中には、「水上、なんであんな芝居をするんだ?」と思っていた方もいたかもしれませんが(笑)、僕は「これが佐久間彰」だと思っていたし、物語の中では誰もそこに疑いを持っていなかったと思います。

彰一人だけ、時間の流れが違うようで、それがまた百合にとっていい違和感になると思ったし、恋につながっていく一つの要素だとも思っていました。

――そういうお芝居をするのは難しくないのですか。

僕が目指したのは、極めて無駄なアウトプットをしないことだったんですけど、見えてるものは似ていても、何もしないことと、敢えてしないという選択をすることは全く違うものなんです。そこがまた紙一重な部分でもあって、観る人によっては、僕が何もしていないように見えることも、ある程度、想像はしています。

やることが多かったり、派手な言動やアクションをすればするほど、キャラが立ってくるものなので、逆に普通を演じるのは難しいんです。それに人によって普通と感じることも違いますし、時代によっても違いますし。

作品の紹介でも「普通の女子高生が時を超えて」とかって使いますけど、「普通」って言葉を先に出されるのは、役者にとっては難しいところでもあるので、そこは気を付けて演じないといけないところではありました。