この国で家畜を放牧しようと思うと、たとえどんなに農場が広大だったとしても、必ずどこかに柵を作り、その中で家畜を飼育することになる。

ところが、国土そのものを「ひとつの大きな農場」としてとらえている国がある。柵を設けずに羊を放畜しているのだ。北欧の島国、アイスランドである。

この島で羊を飼い始めたのは1100年前にさかのぼる。ヴァイキングの末裔が、北海道よりもやや広いこの地で羊の放畜を始めた。

そしていまも1100年前とほぼ同じスタイルで羊を育て、「アイスランドラム」を食しているのである。

じつはこの2月、ある展示会でアイスランドラムを試食する機会があった。もともと羊が大好きだったこともあるのだけれど、アイスランドラムに惚れ込んでしまった。

羊特有の旨味、歯ごたえ、くどくない味わいに、心がとろけてしまった。

けれど、はたと考えた。アイスランドがどんな国なのか、まったく知らなかった。とういうか、いったいどんな環境で飼うとこんなに美味しい羊になるのか、想像すらできなかった。

幸いアイスランド羊協会が制作した、アイスランドラムを紹介する動画を観せてもらうことができた。その動画を観て、アイスランドという国も、どんな土地で羊を放畜しているのか、やっと理解できた。

動画にはいくつかバージョンがあるようなのだが、そのひとつをアップさせてもらうことにした。

羊は臭くて、硬くて食べられたものではない、と思っている人が多いようだ。けれど、アイスランドラムはそうではないらしい、ということを動画を観ていただければ、少しはわかってもらえるような気がする。

1分13秒の動画を、まずご覧いただきたい。

 

 

雪をいただく山々、緑豊かな草原、清らかな水をたたえた湖……。5月頃、農家の羊小屋で生まれた仔羊は、しばらくすると母親と一緒に、アイスランドの神々しい大自然に放畜される。その間、羊たちは野に生える草やハーブを思い思いに食べて育つ。

放畜と聞くと、人間は何もしていない印象を受けるがそうではない。生まれた仔羊に固定番号を付けた後、草原に放つ。誰の羊で、どこで生まれたのか、すべて管理しているのだそうだ。農家によっては50年前の羊のトレサビリティを把握しているという。

そして9月。1ヵ所に集めるため、羊飼いが羊を追っていく。

それが先の、空撮を多用した動画だ。

さて。

このような環境で育てたアイスランドラム肉を食べさせてくれる店が4月4日、北千住にオープンした。アイスランドラム肉を卸している一村直輝さんが始めた「アイスランドラム肉の店OZ」という。

アイスランドラム肉そのものの味を味わってもらえる、シンプルな料理を提供している。