ビジネスマン風の男性と相席に
変貌する高雄をひと通り堪能したあと、私は再び現在の鹽埕に戻り、夕食を探して歩いた。
2013年に初めて滞在してから早や十年。鹽埕の店は食べ尽くしたくらいに思っていたが、時間帯やエリアを少しずつ変えると、知らない看板や人だかりがしている店に出くわす。
かつて訪れたことのある小さな廟の向かいに、折りたたみのテーブルとプラスチックの椅子を雑然と並べた食堂「黒乾温州餛飩大王」があった。
どの席も先客で埋まっている。しかたなく、4人がけに1人で座っているビジネスマン風に「ここいいですか?」と言いながら相席させてもらう。
この店はワンタンが売りのようだが、それよりもキッチン脇のバットに整然と並べられた豚モツに目が行ってしまう。
店にはアルコール類は置いていないので、ワンタンスープとモツのスライスを待つ間、近所のコンビニで缶ビールを調達する。これが台湾スタイルだ。
戻ってきて席で待つこと数分。お店のおばちゃんが、「お待ちどう!」と揚げワンタンと豚モツをテーブルの真ん中に置いた。
一瞬、固まるビジネスマン風と私。彼は自分の目の前に揚げワンタンが置かれたことに驚き、私はワンタンスープを頼んだつもりが揚げワンタンだったことに驚いた。
おばちゃんは相席している私たちを連れだと思い込み、真ん中に料理を置いたのだ。
なんとなく流れで、「よかったらどうぞ」とビジネスマン風に話しかけてみると、最初は遠慮していた彼も揚げワンタンを口に運び始めた。
高雄市内の日系企業に務めているという彼は、なるほど日本人を相手に仕事をしているせいか、風情もなんとなく日本人っぽい。豚モツに台湾ビールをすする私を地元民だと思い込んだようだ。
台湾では、女性も男性もひとり飯やひとりスイーツが珍しくない。
このワンタン店は彼のお気に入りで、週に1、2回は会社帰りに寄るのだという。
「初めて来たんですが、いい店ですね」と言うと、「昼間は市場だからね」と彼。このあたりは、どうやら朝から昼過ぎにかけては市場となるらしい。
高雄にワンタン店が多い気がするのは、かつて外省人(戦後、中国大陸から台湾に渡ってきた人々)が多かったせいかもしれない。
今や外省人と内省人(戦前から台湾に暮らす人々)の境界線は曖昧になりつつあるけれど、ワンタンは確かに中国本土由来のものだ。
ただ、この店のワンタンのように、ひとつひとつが大きな「温州ワンタン」と呼ばれるものは、台湾でアレンジされて流行したものだ。
肉、野菜、炭水化物をまとめて摂れる上に手軽なワンタンは、水餃子と並んで台湾小吃の王道である。
すでに大盛りのワンタンスープとおかずを平らげた後に、私と揚げワンタンをシェアする男性の食欲には驚かされたが、台湾の人たちはみな気持ちいいくらい大食だ。
彼は、揚げワンタンのお礼と言わんばかりに、日本人社員が高雄に来るときに定宿にしているという、リーズナブルなホテルを教えてくれた。
(つづく)