役が生きていることが見える人

撮影/稲澤朝博

――共演をしてみて知ったお互いの一面はありますか。

鈴鹿:(奥平との撮影は)毎テイク、新鮮でした。監督から自由に演じてほしいと言われていたこともあり、自由にだからこそ毎回が繰り返しの作業にならずに、その瞬間から、また翔太の人生がスタートするような、役が生きていることが見える人でした。すごいなって思っていました。

普段はあまり、ここをこうしたいとかって言わない人なんですけど、僕が本当に困っていたときには、ちゃんと言ってくれて、すごく助かりました。お芝居でも、言葉でも、引っ張ってくれて、頼もしさを感じていました。

奥平:央士くんも、小倉さんもそうなんですけど、僕には見えていないようなところまで、見えている人だなと思いました。

僕はまだお芝居を始めてそんなに時間も経っていないし、万能な頭脳を持っているわけでもないので、自由にやっていいと言われてもどうしていいかわからないこともあって。そういうとき、央士くんがいろんな案を出してくれました。

それから、お芝居を見ていても、僕とは違うベクトルで向き合っているから面白いんです。僕が頭で「こう来るんだろうな」と想像しているのとは、違うことをしてくる。だからこそ、僕も自由に、リアルにお芝居ができたんだと思います。

そこは素直に尊敬できるところですし、一緒にお芝居をやってみないとわからなかったことだと。この3人でやれたからこその相乗効果があったと思います。

撮影/稲澤朝博

――お気に入りのシーンを教えてください。

鈴鹿:ゲームシーンです。僕らが撮影をしているときは、実際のゲーム画面ではなくて、何も出ていない画面とか、パラパラ漫画程度のものしかなかったから、どんなものになっているか気になっていたんです。

大きなスクリーンで観たときは、臨場感や、高揚感、ゲーム画面のカッコ良さなどが、全面に出ていていいなと思いました。僕らが「ロケットリーグ」でプレイしているときのシーンは全部いい感じになっています。

奥平:この映画は3人の話ではあるんですけど、それぞれに一緒にいる時とは別の瞬間があって。僕はそういうシーンも好きでした。

翔太の場合で言うと、同級生の仲のいい友達と遊んでいるときとか、(翔太が想いを寄せる)紗良(花瀬琴音)と一緒のときとか、何気ない場面なんですけど、そこに徳島の風景も合わさって日常がきれいに見えて、すごく気に入っています。

そういう人たちとの関係性も、物語の後半、翔太にとって大事なものにもなっていくので、ちょっとしたところですけど、観ていただけたらうれしいなと思います。

©2023映画『PLAY! ~勝つとか負けるとかは、どーでもよくて~』製作委員会
©2023映画『PLAY! ~勝つとか負けるとかは、どーでもよくて~』製作委員会

――徳島での撮影で印象に残ったエピソードはありますか。

奥平:徳島の阿南市という場所で撮影をしていたんですけど、休みの日に、せっかくだから徳島市内に行ってみたいと思って、一人で電車で行こうとしたんです。

そしたら、乗車するときにICカードが使えなかったんです。だから切符を買ったんですけど、今度は改札に切符を入れるところがなくて、駅員さんがハサミで切るタイプだったんです。これまであまり触れたことがなかったから、タイムスリップしたような感じがしました。

あと、電車の座席も東京ではあまり見ないような組み方がされていて。2両編成だったんですけど、窓に沿った一辺が長椅子みたいな形で、向かい側のもう一辺は、4人で向かい合わせになるような形だったんです。

僕は長椅子のほうに座っていたんですけど、向かい側が全面窓になっていて、そこからずっと田んぼの景色が広がっていて。ちょうどジブリのサウンドトラックを聴いていたこともあって、ジブリの世界に来てしまったような感覚になるぐらい、きれいな景色でした。東京では味わえない体験で、すごく面白かったし、心が落ち着きました。

鈴鹿:僕はホテルから歩いて5分くらいのところに喫茶店を見つけて、空いた時間はそこにずっと入り浸っていました。お店の方とも仲良くなって、僕が店に入って行くと「今日もコーヒー?」みたいに声をかけてくださるようになって。

奥平:常連ですね、もう(笑)。

鈴鹿:(笑)。その店のすぐ隣が郵便局だったんですけど、そこの職員の方とか、地域のいろんな人が集まってくるような場所だったので、話している人を見ながら、「こうやって社会とか、地域とかってできているんだな」というのも感じて。

東京で一人暮らしをしていると、そういう関わりってほとんどないから、「やっぱり人とのつながりって大事だな」と思いながら過ごしていました。人とのふれあいが良かったです。