第10話

「こいつの言う通りでしょ。さっきどうでもいいことっておっしゃいましたけど、どうでもいいことで止まっちゃうような捜査は最初から無理があるんじゃないですか。

この映像見つかっちゃったんだから、桂川さんが無関係なのはもう明らかですよね。なのに調書にサインさせろっていうなら、それ法を犯すことになりますよ。特捜ってそういうこと平気でやるんですか?」(第10話)

現職大臣と建設会社の贈収賄疑惑を追う特捜部を手伝うことになった久利生と麻木は、江上が胃潰瘍で入院したことから彼が受け持っていた建設会社の運転手の取り調べを引き継ぐことに。久利生は賄賂を運んだときは運転していなかったという運転手の証言の事実確認を始め、当日運転をしていなかったことを突き止める。

しかし、そうなると金の受け渡しの立証をやり直せねばならない特捜部は、そんなどうでもいいことをと。その姿勢に抗議する麻木。そして、久利生がひと言。疑う必要のない人間を苦しめるようなことはしてはいけないという一貫して持ち続けている久利生の信念がここからもうかがえる。

「違うよ麻木。ホントは江上さんも分かってたんでしょ? だから桂川さんにサインさせられなかったんでしょ」(第10話)

運転手が当日運転していなかったことを入院中の江上に伝えに行った久利生。麻木が調書を作ったのは江上であることに抗議しようとするところを止めて。かつての城西支部の仲間への信頼感が垣間見える。

江上も久利生なら運転手の件を何とか打開してくれるのではと思い、彼を手伝い要員に指名したのでは。おそらく、入院も久利生が取り調べをできるようにわざとしたのでは? おちゃらけて空惚ける江上もいい味出している。

「嫌われたらまずいんだろうなとか、周りの人とうまくやらなきゃなとか、俺の中にもありますよ。一応。でも、事件に関わっている人にしてみたら、そういうの全然関係なくないですか? 

いや、事件の当事者は人生かかってるんですよ。ヘタしたら命かかってるし。ウソつけないでしょ。俺たち検察なんだから。やっぱ、事件には真っ正面に向き合っていかないとダメでしょ」(第10話)

田村と遠藤が担当する殺人事件の被疑者が実は過去にも何度か傷害事件を起こしている可能性が持ち上がり、そのうちの1件では別の人が被疑者として逮捕され、刑が確定したあと死亡していた。一連の事件で被疑者を起訴すれば東京地検の冤罪も明るみにしてしまう可能性が…。そのことで揺れていた城西支部の面々だったが、久利生のこの言葉で起訴に踏み切る決意を。特捜での運転手の件があったこともあり、久利生の中ではよりこの思いが強くなっていたに違いない。

生きていればときに妥協してしまうこともあるかもしれない、でももしそれが人の運命がかかっていることであったら…。それは別に検察の仕事に関わらず、普通の生活の中でも起こり得ることなのかも。

最終回

「実は、俺も昔結構悪さやってて。警察に捕まったことも…。その時に俺のことを担当してくれた検事さんがあとになって鍋島さんと同期だったと知って。その検事さん、沼田さんっていうんだけど、どうしようもなかった俺に真正面から向き合ってくれてさ。結果、不起訴だったんだけど。その時に、俺この人みたいな仕事やってみてえなと思って。それで」(最終回)

麻木からなぜ検事になったのかを聞かれて。久利生が自分の過去を語ることはあまりないだけに、それだけ麻木をパートナーとして認めているということか。もうこの時には麻木の中で“検事になる”という思いはかなり大きくなっていただろうし、久利生のこの言葉で確信に変わったのでは。

「実は俺、あんまりしゃべったことねえんだよな。でも、遠くからいつも見守っててくれて。俺、鍋島さんがいてくれたから検事続けられたんだと思う。(麻木から『良かったですか、検事を続けられて』と聞かれ)もちろん。どんなことがあってもブレずにいられるから」(最終回)

15年前に冤罪を起こしてしまったかもしれない当時の検事・国分(井上順)が弁護側の証人として証言する当日の朝、鍋島の墓前で麻木から鍋島のことを訪ねられて。検事を続けていて良かったのは「ブレずにいられる」と答えた久利生。自分の仕事に誇りを持っている、その姿勢は実にすがすがしい。そのブレない信念を胸に彼は法廷へと向かうのだった。

「裁判員の皆さん。皆さんこうして裁判に関わるのは多分初めてだと思うんですけど…。思いませんか? 裁判って、何でこんなくだらないことやってるんだろう、って。いや、僕はいまだにそう思っちゃうんですよ。

さっきから僕ら、『真実はこうだ!』『異議あり!』ってやってますけど、本当のことは真犯人が全部分かっちゃってるんです。滝さんはなぜ亡くなったのか? 過去の事件は誰がやったのか? 15年前の事件の真相は? 犯人さえ本当のことを話してくれれば、こういう裁判はもう必要ないんです。

でも、ウソを言われると、いきなりワケ分からなくなるんですよね。だから、当事者でもない僕たちが、ああでもないこうでもないって議論し合うんです。犯人の心の中にある真実っていう…それが正義の名の下に許されるものなのか、そうでないのか。

いま正義って言いましたけど、正義は一つじゃないんです。僕たち検事は悪人を絶対に許さないという正義があります。そして、弁護人には依頼主を守るという正義がある。そして、皆さん。裁判員の皆さんには、僕らの主張をよ~く聞いてもらって、法と良心に基づいた公平な判決を下すという正義があります。みんな、それぞれの正義を信じて、それぞれの立場から被告人に光を当てることによって真実を浮かび上がらせていく。それが裁判なんです。

そこには、すっごい大事なルールがあって。それは…、犯人はウソをつくかもしれませんけど、それ以外の、この法廷にいる人すべて絶ッ対に正直でなければならないと。正直で真っ直ぐな光を当てなければ真実は見えてこないんです。裁判は成り立たなくなっちゃうんです」(最終回)

国分に反対尋問を行っている途中、久利生はある思いを胸に裁判員に、国分に、いまこの場にいるすべての人たち(傍聴人的な立場になっている視聴者たちへも)に向けて語り掛けるように話す。その語り掛けは、その場にいる人たちのみならず観ている我々も息を飲む空気を生み出し、「HERO」初の裁判員裁判のシーンを見応えのあるものに昇華してくれた。

このあと、国分は自分が抱えていたものを吐き出し、裁判は真実を浮かび上がらせていく。なお最終回は久利生だけではなく、次席の牛丸をはじめ、城西支部の面々それぞれに見せ場や名セリフがあり、まさにシーズン2の集大成的な濃い内容となっている。

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