写真 浜村達也

完母・乳腺炎・陥没乳頭・断乳・卒乳etc.「助産師」に相談してみては?

――『おっぱい先生』、私も友人に薦められて読みました。助産院の母乳外来を舞台に、助産師の律子先生と見習いのさおりさんが産後のママたちに寄り添う短編の数々に、慣れない育児で必死だった数年前の自分がじんわりと癒されてゆくようで、涙が出ました。

泉さんは「働く女性」をテーマに2016年のデビュー以来、さまざまな文学賞も受賞されていますが、今回あえて、ちょっぴりマイナーな助産師と、助産院に集まるママたちを描いたきっかけは?

泉ゆたかさん(以下、泉):私には小さい子どもが二人いるのですが、一人目の産後、おっぱいがゴリゴリに腫れてしまい母乳外来に駆け込みました。初めて行った助産院は知らないこと、驚くことばかりで、すごく面白いなと感じたんです。

助産師さんと接したことで、育児に対する考え方が大きく変わったことに驚いたというのもあります。

実は私、それまでは「育児は愛情でやるもの」と思っていたんです。

――エェッ!「育児は愛情でやるもの」ではないんですか?

育児は愛情だけでするものではない!トラブルを乗り越えるにはプロのアドバイスが近道

泉:育児というのは「自分の愛情を原動力に、どれだけ頑張れるか?」を試されているような気がしていました。

特に「おっぱい」については、出産するまでまったく何も分からない世界だったので。もっともっと、それこそ一睡もしないくらい努力しなくてはいけない、と考えてしまったことがありました。

産後退院する時、「こんなに何もできない状態で退院するんだ!」って、ビックリしたんです。おっぱいも上手にあげられない、おむつもうまく替えられない。これは真剣に頑張らなくちゃいけないな、と……。

ですが助産院の母乳外来で、「効率のいいやり方」や「ここは気にした方がいいけど、ここは気にしなくていい」など、アドバイスをいただくことができました

ひとりで頑張っていた育児に、外からの声を取り入れられたというか。

――外からの声、ですか。

泉:自分ひとりでやらなくては頑張りが足りない、というのはただの思い込みだったな、と感じました。先人たちの知恵を応用しながら、誰かの手を借りてやってもいいんだ、と。

助産師さんは、出産はもちろん、産前産後のママに関するプロフェッショナルなので、専門知識と豊富な経験からたくさんのアドバイスをしていただけました。

――『おっぱい先生』でも「赤ちゃんは絶対“カンボ”で育てたいのに……」「……ミルクをあげてしまいました」と訴えるママに、助産師の律子先生が具体的な助言をしつつ寄り添います。

「なんだか、急に疲れてしまったんです。(中略)もう努力なんてできない、って思ってしまったんです」と語る彼女に、私も「分かる、分かるよ!」という気持ちでいっぱいになりました。

泉:“カンボ”はすごく印象に残ったキーワードです。

追い詰められるママを救いたい!ケアに込められた助産師の想い

泉:完全母乳、“カンボ”は自分自身の授乳中にも、いろんな場面で出会った言葉です。“完全”という響きに、「そこを目指さなくては!」というプレッシャーを感じたことを覚えています。

ですが私が出会った母乳外来の助産師さんは、皆さん、“カンボ”というキーワードを出すと、「そんなことにはこだわらなくていいから」と優しく流しながら、マッサージや保健指導をしてくださっていました。

完全母乳で育てたいママには、助産師さんはできるだけ希望の形になるように、専門家として手を差し伸べてくださると思います。

でも“カンボ”という言葉は、場合によってはママたちを追い詰める非常にセンシティブなものになる、ということを、助産師さんたちも注意していらっしゃった気がします。

――完全というのは「ちょっとでも踏み外したら失格!」というような“オール オア ナッシング”なところがありますよね。

泉:「完全」ではなく、せめて「ほぼ母乳」くらいののんびりした言葉だったらいいんですが……(笑)。