もし「この人とは合わないな」という助産師さんに出会ってしまったら?
――ただ時々「助産師さんにダメ出しをされて怖かった」「二度と行きたくない」というような声も聞きます。
泉:私も早い段階で子どもを保育園に通わせて職場に復帰することになっていたので、助産師さんに「こんなに小さな子を預けるの?」と、怒られるんじゃないかと緊張していたんです。
でも向こうは「あ、そうなのね。じゃあこうするといいですよ」と、淡々と対応してくださいました。
もちろん人間なのでお互いの相性もありますし、意見が違うことというのはあると思います。ですが、プロに徹している方ほど、相手を否定するような関わり方はしないんじゃないかな、と感じます。
わたしたちはひとりじゃない!助産師さんたちも待っています
泉:そういえば先日も『助産雑誌』(2020年11月号/医学書院)のインタビューを受けたのですが。
――バリバリの医学専門誌でも『おっぱい先生』が取り上げられるんですね!
泉:業界に詳しい『助産雑誌』の編集さんによれば、現場の助産師さんたちも「自分の専門技術や経験を活かしてママたちを助けたい!」と、思ってくださっているようです。
でも助産師、という存在がどんな仕事をしているのか社会に知られていないため、助けを求めるママに支援の手が届かない。そこが悩みなんだそうです。
『おっぱい先生』の帯にもありますが「わたしたちはひとりじゃない」。みんな大変な思いをしているし、それを助けようと待ってくれている人たちもいる。
作中で律子先生は、ママたちに「育児をひとりでするのは無理」と繰り返し伝えています。子どもを育てるのにママ以外の誰かの力はとても大切で、特に産前産後のさまざまな「変化」については「助産師」というプロフェッショナルがいます。
『おっぱい先生』が、助産院や助産師というプロの仕事を知るきっかけとなって、ママの体や心の悩みの解決につながったらうれしいです。
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助産院を舞台に繰り広げられる物語『おっぱい先生』の作者・泉ゆたかさんに、助産師について伺った今回のインタビュー。何度も「育児はひとりでできることではありません」と話されているのが印象的でした。
【後編】では「産後家庭に(助産師だけでなく)第三者の介入が絶対に必要な理由」について語っていただきます。
「産後にママとパパが理解し合えないのはナゼ?」「夫に分かってもらうにはどうしたら?」と悩んでいるママ必見です。ご期待ください!
【取材協力】泉 ゆたか さん
1982年神奈川県逗子市生まれ。2016年に『お師匠さま、整いました!』で第11回小説現代長編新人賞を受賞しデビュー。19年に『髪結百花』が第1回日本歴史時代作家協会新人賞、第2回細谷正充賞をダブル受賞。他作品には『おっぱい先生』をはじめ『お江戸けもの医 毛玉堂』、『江戸のおんな大工』がある。
いずれの作品でも「働く女性」(※寺子屋の師匠、防水堤の建築家、吉原の髪結、獣医助手、助産師、大工、等)をテーマにする理由は、ご本人曰く「仕事でも育児でも、『誰かのために動くモードに変わるときの、人の姿』が好きだから」とのこと。