自粛期間が作品に与えるリアリティ
本作には亀梨和也をはじめ、ある日突然息子が消えてしまった母を貫地谷しほりが演じるほか、浅利陽介、松岡広大ら魅力的な役者が揃う。
「役者が変わると演出もどんどん変わるんですよね。よく知っている役者とやるときは、どうしてもその役者の行き着く先がある程度見える部分がある。
今回は皆さん初めての方で、どこまでやるのか、どこが彼らのたどり着く場所なのかがわからない。だからこそ『そこまでやるんだ』という部分が出ているし、それによってシーンも想定とはまったく違うものになっていくんです」
稽古を通じて役者たちから感じているのは、いい意味で「感情的」であること。
「ふだん、イキウメではぐっと感情を抑えた演出をすることが多い気がするんですが、今回の役者さんたちは皆さん、瞬間的に観ている人の感情をぐっと引っ張るんです。観ていて持っていかれる感じがする。それが面白いし、ちゃんとPARCO劇場仕様の芝居になっているな、と思います」
たくさんの演劇人たちの例に漏れず、前川も5月に予定していた公演『外の道』を延期にせざるをえなかった。そんな状況下で、イキウメは「外の道 ワークインプログレス」という形で作品を深く理解するための創作活動を続けてきた。
「公演も仕事もできず、そんな状況のなかで、集まって稽古やミーティングをすることがリハビリになって、僕もみんなも救われたんですよ。足元を検証することができた。ワークインプログレスを通じて、これまで当然と思っていたことが幸せだったと気づけた部分もありました。
副産物として、“金輪町の地図”ができたのはよかったですね。イキウメの作品って、今作も含めてすべて金輪町という架空の町で起きていることになっているんです。だからいろんな作品の台本からもってきた情報を地図に落とし込んでみた。
その地図を、今回の稽古場に持ってきたら、意外と役に立ちました。実際にこの小さな町で起きたできごとなんだというイメージを共有できたり、リアリティを持つことができたりしました」
自粛期間の活動も糧にして作られる『迷子の時間 -語る室2020-』。
登場人物それぞれの人生、人と人との関わりを味わっているうち、気がつけばはるか遠い場所に連れていかれるような作品になりそうだ。
「派手な話ではないけれど、現在と過去が“語り”によって干渉し合ったり、時間を飛び越えられたりする、演劇ならではの面白さのある作品だと思います。
役者それぞれに見せ場があるから、そこにぜひ注目してほしいですね」
公演情報
日程:11月7日(土) ~ 2020年11月29日(日)
会場:PARCO劇場
料金:12000円(全席指定・税込)
作・演出:前川知大
出演:亀梨和也、貫地谷しほり、浅利陽介、松岡広大、古屋隆太、生越千晴、忍成修吾