宮本亞門 撮影:福田栄美子
単館上映から口コミで評判が広がり、大ヒットした映画『チョコレートドーナツ』が、初めて舞台化されることになった。
70年代のアメリカで社会の規範と闘うマイノリティの姿は、差別や分断が深刻化する21世紀のいま、より切実に胸に突き刺さる。原作映画の監督と意気投合し、演出を託されたという宮本亞門に、意気込みを聞いた。
自粛期間を経て挑む、5年越しの企画
――新型コロナウイルスは、舞台芸術界にも多大な影響を及ぼしていますね。
「精神的にも、不安になったり脆くなったりする人が増えていますよね。こういう時に、自分の心の中を見つめるという点で、演劇ができることは多いと思うんですよ。僕たちは人の内面を探るのが仕事なので、演劇は、より必要になるものと信じています。
たとえば、自粛期間とリモートワークを経て対面の稽古に入った際に、ある俳優さんは小声で「実は舞台よりも子どもと一緒にいたいんです」と打ち明けてくれました。
みんなコロナでブレーキをかけられた際に、「仕事とは」「家族とは」って、いろいろなことをじっくり考えたと思うんですね。以前だったら「そんなヒマがあったら仕事仕事!」とでも言うところですが、今は違う。仕事の場でも、以前より深い会話ができるようになったと感じています。
僕も足がランディングしたというか、「少し気持ちを落ちつけて前を見なさい」と言われたような気がしていて、そんなタイミングで『生きる』とか『チョコレートドーナツ』のような作品に取り組めて、すごく幸せです。」
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