撮影:福田栄美子

理解できないからと、相手を非難するのはよくない

――1970年代後半のアメリカが舞台ですが、マイノリティに対する社会の偏見は、当時も今も根強く存在しています。近年はさらに、敢えて差別意識を隠さない人が増えていますね。

「自分が理解できない人だからと、相手を非難してはよくない。ただ、人と人が愛し合って、一緒にいたいと思う。それだけのことなのに、そこに恐怖感を抱いたり、間違った解釈を持ち出し否定しようとする。

この作品の中でも、法廷は「ドラァグクイーンをしているから」「夜の仕事だから」という理由でルディを否定し、麻薬中毒で、育児放棄している少年の実の母親の方に、養育する権利を与えてしまいます。中身ではなく、レッテルのみでの判断です。

確かにマイノリティについて知らない人にとっては、最初はショックで怖いことかもしれませんが、ひとりひとりが、それぞれ異なる自分のカラーをもって生きているという事実を認め合えば、何ひとつ怖がることも、驚くこともないはずなんです。もう、そういう時代に変わってほしいと思います。

残念ながら多様性を認めるどころか、品格もなく、ただ強引に政策を決め、向き合って答弁もできないリーダーが台頭しているのは悲しいことですね。

ですが、見方を変えれば、時代とともに多様性への理解が進んできたがゆえに、彼らの弱点が露わに見えるようになったのかもしれません。

さらにこのコロナ禍では、不安が募ると、弱者を責めたくなる人が増えるのは歴史が物語っています。昔から天変地異などがあると、魔女狩りをして悪者を作り、すべてをその悪者のせいにしてきた。

そこから戦争につながって来た事実もあるので、今は、なんとかそうしないように、多様性への理解を深めるために、何度でも何度でも、言葉を尽くし続けることが重要だと思います。」

――少年マルコ役に、映画同様ダウン症候群を持つ二人の少年(高橋永・丹下開登)を選んだのも、亞門さんの意向ですか。

「映画を観た時以来、マルコ(アイザック・レイヴァ)の顔が脳裡にこびりついて離れずにいたんですが、ちょうど同じころに、日本でダウン症のある子どもたちがお芝居をする舞台を観る機会があったんです。

舞台の彼ら/彼女らの表現はあまりにもストレートで、心に直接響いてくる。観ていて号泣しちゃいました。大感動したので、『チョコレートドーナツ』をやるのなら、どうしてもダウン症のある子たちと一緒にやりたいと思ったんです。

オーディションには、30名くらい来てくれたかな。みんなほんとに楽しそうにやって来て、楽しそうに帰って行きました(笑)。いままで仕事をしてきた枠組みの中では出会えなかった人たちで、僕たちもすごく刺激を受けられると思います。

もちろん、正直なことを言うと、大変だと思います。みんな自由なので、突然「イヤだ」と思ったら「イヤだ」と言うし、我慢をしない時もある。

客観的に、俳優という仕事を理解するのは、最初は難しいと思います。でもそこは、迎える僕たちも温かく向き合って、自分たちと違うからとか、ダウン症があるからとか、勝手に決めつけず、つねに反芻しながら、一緒に稽古していきたいと思っています。

恐れることはない。もうそういう多様性を認めていい時代のはずですから。」

公演情報

PARCO劇場オープニング・シリーズ『チョコレートドーナツ』

日程:12月7日(月) ~ 2020年12月30日(水)
会場:PARCO劇場
料金:13,000円(全席指定・税込)

翻案・脚本:谷賢一
訳詞:及川眠子
演出:宮本亞門

出演:東山紀之、谷原章介、堀部圭亮、八十田勇一、妃海風、まりゑ、大西多摩恵 下総源太朗 エミ・エレオノーラ 矢野デイビット、高橋永/丹下開登(ダブルキャスト)、穴沢裕介、佐々木崇、高木勇次朗、シュート・チェン、米澤拓真、モロ師岡、高畑淳子