Photo by Kenji Miura
フォトギャラリー『ひとり股旅 2020』のライブフォトをもっと見る

「今日はみなさま、たくさん来ていただきまして、ありがとうございました! 今回はいろいろなことがありまして──もともとは今日のZeppも、本当は別のツアーをする予定でしたが、まあこんなことになったので、弾き語りでやっております。まあでも、何と言うか、できてよかったです!」……11月25日、Zepp Tokyo。

アコースティックギターを抱え、舞台上にひとり佇む奥田民生の飾らない言葉は、「困難な時代に対峙するがゆえの複雑な想い」と「それでもオーディエンスを目の前にしてライブを開催できる喜び」とを、実にリアルに物語っていたのが印象的だった。

1998年の初開催以来、バンド編成のアクトとともに奥田民生のライブの定番スタイルとなっている、たったひとりの弾き語りワンマンライブ=『ひとり股旅』。

終わりの見えない新型コロナウイルス感染拡大の影響により、ライブ活動が軒並み中止・延期や規模縮小、あるいは無観客での開催を余儀なくされてきた2020年の状況の中、今回のツアー『ひとり股旅 2020』全6公演は全公演着席&ソーシャルディスタンスを実現した上で、有観客&LINE LIVE-VIEWING生配信という形での開催の運びとなった。

「内野席」(来場チケット)、「外野席」(配信視聴チケット)、「パネル席」(グッズ付き配信視聴チケット)という粋なチケットのネーミングからも、この特殊なライブを送り手も観客も一緒に楽しみきろうとする意欲が窺える。

奥田民生 Photo by Kenji Miura

そんな『ひとり股旅 2020』のファイナルを飾った、今回のZepp Tokyo公演。

複数のギターやキーボード(SE用)、オープンリールのテープレコーダーなど機材が所狭しと並んだ舞台に、作務衣&頭にタオル巻きという「ひとり股旅」お馴染みの出で立ちで奥田民生が登場。

アコギを構え、「はい、奥田民生です。よろしくお願いします」という短い挨拶とともに披露した最初の曲は、2000年のアルバム『GOLDBLEND』収録曲“近未来”だった。

ギターをかき鳴らし《あー教えて下さいよ 僕らの近未来を》と伸びやかに歌うフレーズが、前代未聞のコロナ禍に見舞われた2020年を映し出しているようで、思わずゾクッとする。

さらに続けて、「1会場1曲録音」を敢行した2010年のレコーディングツアー「ひとりカンタビレ」の象徴的楽曲“解体ショー”。

《こんだけのネタで 成り立つショーさ》という歌詞とは裏腹に、弾き語りという最高にシンプルな形でもマジカルな訴求力を発揮する演奏は、あたかも「奥田民生というポップの謎」そのもののように観客をその歌世界へと惹き込んでいく。

Photo by Kenji Miura

“何と言う”(2004年シングル曲)や“羊の歩み”(『GOLDBLEND』収録)、“股旅(ジョンと)” (1998年アルバム『股旅』)と自らのキャリアの時系列を自在に行き来したり、曲の合間にグラスの酒をぐびりと飲んだり、客席最前列に配置されたバルーン人形「ハバレロくん」を紹介したり、「配信のみなさま、こんばんは!」とカメラ越しに「外野席」「パネル席」の観客に挨拶したり……といった具合に、MCも演奏もマイペースで進んでいくこの日の『ひとり股旅』。

焦燥感や爆走感とは一線を画した奥田民生のライブでも、『ひとり股旅』での時間は心地好くゆるやかで、それでいてその随所に確かな歌の底力を感じさせる。

「久々な曲をやったりして、『いいね』と。『このご時世にも合ってるね』っていうのもあったんだ」という前置きとともに歌い始めたのは“カイモクブギー”(2008年アルバム『Fantastic OT9』)。

予測不能な時代を《いまや何もかんもゼッするぜ まさにこれ小説よりキナリ》のフレーズで指し示しながら、ギターのボディをコンコンと叩いて会場のクラップを誘ってみせる。

Photo by Kenji Miura