「菅田(将暉)、岡田(将生)、Wマサキじゃなくて僕ですみません(笑)」
インタビュー開始早々粋な冗談を口にし、場の空気を一瞬で和やかにさせたのは、2021年10月22日公開の映画『CUBE 一度入ったら、最後』で、アウトローな整備士・井手寛を演じる俳優・斎藤工さんだ。
1997年公開の映画『CUBE』は特別な映画体験
1997年に公開されたカナダ発の密室スリラー映画『CUBE』。「一つのセットで登場する役者は7人のみ」と低予算でありながら世界的に大ヒットしカルト的人気を誇った。映画監督や映画プロデューサー、映画評論家の一面を持つ斎藤さんもまた『CUBE』に魅了された一人だ。
「20年以上前に劇場で『CUBE』を見た時の感覚や雰囲気は、いまだに場面的に残っています。僕の中の映画って非現実を求める娯楽でした。遠い国の見たことのない景色とか、美しいラブストーリーとか、実際に起こり得ないアクションとか。
そういう意味で『CUBE』は、現実世界と重なって「あれ、今この状況やばくない?」と思いましたね。すごくよくできた小劇場の舞台“一幕物”(ひとまくもの)の感覚に少し近くて。
『CUBE』は観た瞬間「閉じ込められたな」と感じたんですよ。劇場という立方体の箱の中で“立方体の箱に閉じ込められる映画”を鑑賞する。ただじっと観ているだけなのにアトラクション的で、とても特別な映画体験でした」
「親のような気持ちで日本版『CUBE』の公開を迎えています」
「CUBE」のリメイクはヴィンチェンゾ・ナタリとカイル・クーパーとともに何年も前から企画されてきた。ところが撮影を控えた段階で、世界がコロナ禍に巻き込まれ、製作チームが来日できない状況に。
「そこで日本版『CUBE』の監督として候補に挙がったのが清水(康彦)さんでした」
いくつかの映像作品をともに製作してきた二人。中でも斎藤さんが主演・企画・プロデュース(※企画・プロデュースは齋藤工名義)を兼務した映画『MANRIKI』(2019年公開)は、清水監督が日本版『CUBE』の監督候補に上がるきっかけとなった作品だ。
「清水さんはもともと広告やミュージックビデオなど短編の映像作品で監督を務めていて、本人としても映画監督になる構想はありませんでした。ただ僕としては、“監督”という職業に線引きがなくなるべき、CMもMVも映画も棲み分ける必要はない考えがあって。その考えのもと清水さんの長編作品が絶対に見たいと『MANRIKI』を一緒につくりました。
その時に魅せた清水さんのフィルムメイカーとしてのアート性や個性と『CUBE』の世界観にとても相性の良さを感じました。どうしても映画を撮ってほしいと思う清水康彦という人間に、映画としてシンボリックな伝説的作品をつくってほしかった」
斎藤さんは清水監督が日本版『CUBE』の監督として決まる瞬間にも立ち会っている。「宝塚の合否を待つ子どもの親みたいな心境でした」と笑いながら振り返った。
「僕自身、オリジナル版の一ファンとして清水さんがつくる『CUBE』に不安がなかったわけではありません。彼は映像感覚的に素晴らしい作品をつくっていることは理解していましたが、『CUBE』は映像的な誤魔化しだけでは難しい作品です。だけど、『CUBE』の撮影前にリモートで一緒につくった『HomeFight』『でぃすたんす』で、人間の業や本質が描ける人だと確証を持てました。
本作においては映画ファンに厳しい見られ方をする作品だと思いますが、そこで清水さんがどういう風に鍛えられていくのか。映像作家として確実にステージアップしていくはずですし、近くで清水康彦ヒストリーを見てきた僕としては、同い年なのに親のような不思議な気持ちで映画の公開を迎えています」
思い入れの強い作品であるからこそ、製作側に寄り添いたい気持ちもあっただろう。しかし、そこは一役者として参加を決めた斎藤さん。
完成した本作について「家という立方体の中で外に出られずどう過ごすかを誰しもが問われたコロナ禍で、いみじくも立方体の中に閉じ込められる『CUBE』が今リメイクされた意味をすごく感じました」と話した。