“坂田銀時”として現場を引っ張り、守り続けてくれた
──長い月日関わってきた『銀魂』の現場ならではの特別感はありましたか?
阪口 笑うのを我慢するスタジオってそんなにないけど、『銀魂』に関しては変なところでツボに入るんですよね。テスト中に吹き出す現場は特別なのかなと思います。『銀魂』は別録りが少ない現場で、息が重なっていようがほかの人のセリフに被っていようが一緒に録ってくれるんですよ。普通はちょっと重なると別で録りますけど、そこはサウンドミキサーの野口さんの力で。
杉田 漫才のやり取りだから、ボケやツッコミを離してはいけないと。
阪口 一緒に録ることで、ボケとツッコミが重なっていくとテンションやテンポ感が変わってくるので。ただツッコミだけを録るのと、ボケを聞いた上でツッコミを録るのでは全く違うから、特殊であり、ありがたい現場でしたね。
釘宮 あまりにもみんなで掛け合いをすることに馴染み過ぎて、本編以外でたった一人で収録するときにキャラクターが分からなくなる状態に陥った時期があります。掛け合ってくれる相手がいないと自分がどんなテンションや温度感で話していたのか、迷子になった気持ちになって演じられないとシリアスに悩んでいましたね……。
阪口 そんなことが(笑)。あ、あとはアフレコ後のご飯が美味しかったね。
杉田 確かに記憶にたくさん残っています。今日は早く終わらせて天ぷら食べに行こうとか。ひとつの楽しみでしたね。
阪口 オリンピックを見ながらご飯を食べたこともありましたね。そういう意味でも万事屋含め、キャスト間の距離が近かった気がします。
──15年アニメ『銀魂』で銀時を演じてきて、杉田さんご自身の中に何か変化はありましたか?
杉田 何か変化があったというより、どうやって食らいついていこうかばかりを考えていた気がします。自分のことしか考えていない変人の桂は一番周りを見ていて、自分の考えを絶対に曲げないと主張する高杉こそ分かり合いたいという空気を出す。楽しく生きられればいいと思う坂本は、楽しみ方に繊細なこだわりを持っている。
一方、銀時はいろんなものを隠しながら生活している。背中と魂で語るだけで何も話してくれない、本音を見せない人だから自分で探っていくしかない。だから演じるのは不安で仕方なかったです。自分から言葉を溜め続けるしかなかった。
そんな人の振り見て我が振り直さなかった銀時が、初めて本作で自分と向き合います。自分の向き合いたくない過去と向き合う、自分との戦いが始まると思いました。15年近く溜めてきた言葉の結果が芝居という形でこの映画に繋がっていたら嬉しいですね。
──そんな杉田さんを、おふたりはどのように感じていたのでしょうか。
釘宮 今、杉田さんが銀ちゃん(銀時)のことを「背中と魂で」と言っていたように、日常的な些細な会話はしますけど、それ以外のことを発信することは全然ありませんでした。でも、スタジオでは姿勢ですごく見せてくれていたし、守ってくれていたと感じます。
杉田さんはほかの作品でも、スタッフさんや演者さんに対するリスペクトの気持ちがとても強くて。信頼の気持ちを言葉には出さず、雰囲気で出してくれていました。私はありがたいという気持ちでそこに乗っからせてもらうのですが、そうやって素直に乗っかることで杉田さんがホッとできることもあったのかなと。万事屋3人の関係性はとてもいいバランスだったと思います。
阪口 杉田くんがスタジオでつくり上げた銀時の中の人としてのスタンスが、この作品を良くしたんじゃないかな。銀時の中の人が決まり過ぎていたら、この空気にはならなかった気がしています。強烈なリーダーシップと言葉で引っ張って行く主役がいてもいいんですけど、そうだったら『銀魂』ではなかったと。
銀時はこの作品の芯だけど、杉田君がそれを自分から絶対に口にも態度にも出すことはなくて。“坂田銀時として”引っ張ってくれたから万事屋の3人はまとまれて、スタジオもいい空気でいられて、15年続けられたんじゃないかと思いますね。
15年間で積み重なった“万事屋”のチームワーク
──15年間一緒に万事屋を演じられてきて、お互いに対する印象の変化はありましたか?
杉田 おふたりに対しては、最初から抱いていた良いものが積み重なっていくイメージしかなかったです。何ものにも代えがたい財産だと思います。
阪口さんは「ハイブリット新八」。ツッコミもボケもできて、人の感情の揺れを察知するのがとても鋭い人なんです。「今日大丈夫? 杉田くんの言葉尻がすごいきつかったから、何かあったのかと思って」と。そんなこと聞いてくれる人、親以外に阪口さんくらいですよ。下ネタにも振り回されないし、ハニートラップにも引っ掛からない。まさに「ハイブリット新八」ですね。
阪口 ハニートラップに引っ掛かるようなことはないからね!
杉田 DS(ゲーム機)に差さっていた『ドラクエ』のソフトを抜いて『ラブプラス』を入れたのは僕なので……。
阪口 それはハニートラップではないぞ。
杉田 釘宮さんは人としてとても優れていて尊敬しています。役者として声優として人としての強さを釘宮さんがいつも僕に教えてくれる。『F-ZERO』で例えるならゴールデンフォックスみたいな。
阪口 分かりづらいな……。
杉田 ものすごいウィークポイント(弱点)を抱えた強さなのに、それを守るのも上手。一体どこに隙があった!?と思うけど、釘宮さんは「結構隙だらけだよ」と。この人の強さの秘密はどこにあるんだろうと思います。お芝居のときには、僕の投げた悪球を見事に打ち返してくれる。ものすごい信頼に繋がっています。
真選組のガヤに参加したとき隣からすごい美少年の声が聞こえてくると思ったら釘宮さんだったんですよ。思わずカッコいい!って言ったら「恥ずかしい!」と僕を叩いて……。忘れもしない思い出です。以上です。
阪口 杉田くんは言葉がこんななので、理解不能なことも非常に多い(笑)。でも、『銀魂』の中心にいてくれて本当に良かったと思います。本人にその気がなくても、中心にいる人なんですよね。
原作者の空知英秋は『銀魂』という作品が服を着て歩いているような人ですけど、杉田くんもそんな感じがします。つかみどころはないのに芯はちゃんとあって、頼りにならないかと思ったらすごい頼りになる。ああ、『銀魂』って杉田くんなのかなと15年間で本当に思いました。
くぎみーに関しては、こんなこと言うのすごく恥ずかしいけど、「太陽」ですわ(笑)。それは杉田くんも感じていることだと思います。くぎみーがいるだけで現場が楽しくなるので。
杉田 確かに。いないと不健康になりそう……。
一同 (笑)。
阪口 僕より年下ですけど、精神的には寄りかかっている部分がありました。メンタルがやられていても、くぎみーといると持ち直せることもありましたし。このふたりと一緒にいれて、すごくいい15年間になったと思います。こう思えるのも、杉田くんの言うように15年間の積み重ねですね。
──阪口さんから「太陽」と言われる釘宮さん、おふたりの印象についていかがでしょうか?
釘宮 どうも、「太陽」です。
阪口 あははは(笑)。
釘宮 杉田くんは本当に態度で示してくれて、言葉に出てきたときはちょっとよく分からないことも多いんですけど。それでも、一生懸命伝えようとしてくれているのが分かるというか……なんか泣けてきちゃった……。
杉田 さっきの釘宮さんに対する例えを補足すると、“弱点のない”ゴールデンフォックスなんです。ゴールデンフォックスは非常に高い加速力を持っているのですが、ものすごく衝撃には弱い。しかも、最高速度の上昇も遅い。でも、釘宮さんは最高速度の上昇も早い。なんなんだこりゃ!って……。
阪口 だから、分かりづらいんだって(笑)!
釘宮 なんかもうずっと分からないんですけど、こうやってフォローしてくれるのも優しさでしかないじゃないですか。それでいつも杉田くんの言葉を大助さんが通訳してくれていると思っていたのに、大助さんも「理解不能なことが多い」と言っていてマジかって(笑)。
杉田 うん。「頼りにならないかと思った」と言われて、何!?とも思いました(笑)。
釘宮 伸び伸び演じさせてくれたのも、まさしくふたりで。自由に演じないとできないキャラクターだから朗らかに演じたいと思っていたので、「自由に演じていいんだよ」とふたりが空気をつくってくれていてありがたかったです。3人で上手くキャッチボールできていたなと思います。
誰かが取り落としちゃったボールを別の人が「よっこいしょ」と拾ってくれるいいチームワークが常にあった。3人が3人とも思い悩むようなことはあまりなかったな、と振り返ってみて感じますね。
──3人だからこそ、この空気感がつくり上げられたんですね。
杉田 共演者のみなさん個性的ですし、『銀魂』が始まった当初は先輩や年上の人ばかりだったので、「どうすればいいんだ……」と思っていて。そこから徐々に新しいキャラクターで自分より若い人や『銀魂』を見て育ってきた世代の人が増えてきたら、今度は思い上がる以上に「気を引き締めなきゃ」「憧れ続けてもらえるように」と思うように。だからといって、ギラギラした感じを見せると面白くない姿になってしまう。
そういうときに、おふたりに甘える瞬間はすごくありました。何かあったら世界一のツッコミが横からくるし、ミラクルレシーバーがどんなボールでも取って返してくれる。親以上に甘やかされていますよ。