くらしにくふうが2020年8月に実施した「3歳から6歳の時期の子育てに関するアンケート」では、「コロナ禍で家庭での子育てに関する悩みや困りごとが増えた」との回答が70%にのぼる結果に。
特に上位に上がっていた悩みは、やはり子どもの感染リスクへの不安でした。それを除けば、
・家で過ごすことが多く、どんな遊びをしたらいいかわからない
・子どものストレスがたまっている
・家で過ごすことが多く、親に余裕がないため子どもを叱ることが増えた
など、ステイホームならではの時間の過ごし方に大きな悩みがあるようでした。
そこで今回は、子どもを叱ることが増えていたり、子どもの叱り方に不安や迷いを感じているママ向けに、児童心理学の専門家からのアドバイスをお届けします。
子どもを叱るときの「ママの悩み」あるある
今回、お話を聞いたのは、子育て・教育に特化したオンライン相談室「ウチのこは」で、相談を受けている専門家の方です。
「ウチのこは」では、医師、心理士、スクールカウンセラーなど厳選された各分野の専門家80名以上の中から悩みに合った方を選んで、直接オンラインで相談できます。悩みの内容は、いじめ、不登校、夫婦・家族関係、発達障害、受験・勉強、子育てのストレスなど多岐に渡ります。
今回は、その専門家の中から、子育てに自信がないママや、叱り過ぎて自己嫌悪に陥るママなどのお悩みを得意とする公認心理師の佐藤めぐみさんに、子どもを叱るときのよくあるママの悩みについて、解決策を教えていただきました。
1.つい感情的に叱ってしまう
佐藤めぐみさん(以下、佐藤)「感情の爆発が起こりやすい場合、気づかぬうちに、心の中で過去の事例まで引っ張ってきてしまっていることがよくあります。
例えば『まただ!』とか、『この前もやったのに』のようなつぶやきです。このような言葉を一つつぶやくたびに、心の中でとらえる“叱りネタ”がふくらんでいくことになります。
叱ることが一つのときと、三つのときを比べると、当然三つのときのほうが感情のコントロールがむずかしくなるので、それが外に出やすくなるのです。
その他、『昨日も』や『いつもそうだ』『毎回同じことを!』もその仲間です。このような過去を匂わせる言葉がよぎると感情の爆発が起こりやすくなりますので、そのような言葉を意識的に心によぎらせないようするのはポイントの一つです」
2.叱っても言うことを聞かない
佐藤「叱っても効果がないことへの対策は、実際には相当の時間や労力を伴うものですので、ここでは重要なことに絞ってお伝えします。
ちゃんと叱っているのに子どもが言うことを聞かない場合は、ご家庭の中のルールがあいまいになっていることがほとんどです。
例えばテレビや動画などを『消そうとすると子どもが怒る」とか『消しなさいと注意しても子どもが消さない』といったとき、親が叱っている間もテレビや動画がついたままの状態では、子どもは『まだ見ることができている』と認識するので、言うことを聞かないでいるほうが得策になってしまいます。
そこで対策となるのが、きちんとルールを作り直すことです。今の状況を見て、『うちの子がテレビを消すなんて到底思えない』というご家庭も、ルールを作り直すことで、可能になります。
私が行っている行動改善プログラムでも、それまでのルールを手放し、新たなルールを作り直すことで改善へと導いていきます。
ポイントはたくさんありますが、その中でも大事なのは『子どもが叱られることで何を学んでいるか』という視点を持つこと。
『叱る』というと強い力をイメージするかもしれませんが、本当に大事なのは望ましい行動を『学んでもらう』ことなので、『この子のいい学びにつながっているかな?』という視点は非常に大切になってきます」
3.手が出そうになる
佐藤「いつまでも言うことを聞いてくれないと、思わず手が出そうになるという方もいるでしょう。もし実際に手を出してしまうと、親子ともに心が傷つくことになります。
叱る際に大事なのは、『今できていないことを、将来的にできるようになれるよう教えてあげているか』です。もし親が叩けば、子どもはそこから逃げたいので、言うことを聞く確率は高まりますが、肝心な教えはそこにはありません。
例えば、きょうだいげんかをする子どもたちのことを叩いたら、痛いのでけんかはやめるでしょう。でも『じゃあ、きょうだいげんかをしないで仲良く遊べるか』と言ったら、残念ながら遊べません。なぜなら、叩くだけでは、仲良く遊ぶ方法を教えられていないからです。
逆に『トラブルはこうやって力(叩く)で解決すればいいのよ』という裏メッセージさえ送っていることになります。
2020年4月より、家庭内での体罰が法でも禁じられています。もし手が出そうになったら、その場をいったん離れましょう。キッチンで水を飲む、3回深呼吸をする、など自分なりのルールを作ってみてください。
感情的な怒りは、時間をおくと収まりやすいので一歩引くことは非常に大事なポイントです」
4.叱るべきか迷ってしまう
佐藤「叱るべきか迷う場合、もしかしたら叱るよりも、別のとらえ方をしたほうがうまくいくかもしれません。私はよく『その場で叱るべき案件か』『学ばせる方向性か』という区分をすることをおすすめしています。
例えば、子どもがお友だちを叩いてしまったり、お店で他のお客さんに迷惑をかけてしまったりするような、他者への侵害については、その場でしっかり注意をすることは大事なことです。
これが学べていないと、小学校以降、社会で過ごす時間が増えると、その中でトラブルを起こしてしまったり、うまく交われなかったりと本人が苦労するからです。
一方で、『おはよう』が言えない、宿題をやらない、食べ方が汚いといったような、その子自身に身につけてほしい習慣が身につけられていない場合は、学ばせる方向性のほうが、結局、早道のことが多いです。
このとき、大事なのが『ほめること』です。私たちは『やって当たり前』という頭があると、『たまたまママにおはようが言えたこと』『5分は宿題に取り組めたこと』『今日は昨日よりこぼさなかったこと』のような成功例を見逃しがちです。
成長の種は、こういうところにあり、『5分は宿題に取り組めたこと』をしっかりほめてあげると、それが次回の宿題タイムへのいい橋渡しになり、少しずつその時間を伸ばすことへとつながっていきます」