2016年に亡くなった演出家・蜷川幸雄氏の代表作『ムサシ』が2021年8〜9月、蜷川氏の七回忌を前にした追悼記念公演として再演される。
本作は、劇作家・井上ひさし氏が書き下ろし、命の尊さ、復讐の連鎖を断ち切ることの大切さを描いた作品で、2009年初演。以降シンガポールやニューヨークなど海外でも上演されてきた名作舞台だ。
蜷川幸雄と井上ひさしが初ダッグを組んだ記念すべき作品
「普遍性のあるテーマを描いていて、蜷川幸雄と井上ひさしが初ダッグを組んだ記念すべき作品。蜷川さんの後期の演出の代表作だとも思うし、全てがそろっているよね」。初演から出演し、今回は演出も手がける吉田鋼太郎は話す。
繰り返し上演してきたため、キャストは「セリフが体に入っている」状態だというが、「(藤原)竜也が劇中の武蔵とほぼ同年齢になった。どんな進化を見せてくれるか。どれだけ芝居が深くなっているか。楽しみ。(溝端)淳平もだいぶ腑に落ちてきた頃で、これからもっと自由に、さらに威勢の良い小次郎を見せて欲しい」と期待を寄せていた。
彩の国シェイクスピア・シリーズなど、蜷川氏の演出を受け継いできた吉田だが、本作の演出は初めて。
「僕の色を出すとか、ここはちょっと変えてみようとか、そういうことは一切ない。オリジナルの演出に限りなく忠実でありたい」と話す。
「初演の時は、筆の遅い井上さんの原稿を待ちながら、幕が開くのだろうかとドキドキしていた。でも、蜷川さんは全く慌てずに、ゆっくり作っていこうよと話していた。的確に新しいものを創造していくワクワク感とヒリヒリ感に包まれていた当時の稽古を思い出して、舵取りして行こうかな」。
キャストが入れ替わったとしても、後世に残すべき
蜷川氏が亡くなり、まもなく七回忌を迎えるが、吉田は今もどこかで蜷川氏の“存在”を感じるらしい。
「蜷川さんとは関係のないプロダクションに出ていてもね、『鋼太郎、それでいいのか?怠けていないか?』と言われている気がして(笑)。そんな面倒臭さと影響力の強さを感じているし、今、切に思うのは、蜷川さんの芝居が見たい。感動する芝居はたくさんあるけれど、やっぱり蜷川さんの独特の空気にもう1回触れたいな」と話す。
もし、もう1度だけ蜷川氏と話せるなら何を話したいか尋ねると、吉田は「語りたくないよ」と笑いつつも、「ハムレットという芝居が好きで。蜷川さんは何回もハムレットをおやりになったけど、次やるとしたら、どういうハムレットにしたいですか。そう聞いてみたい」と目を細めた。
改めて『ムサシ』については「何回も上演されてきているが、これからも何回も上演され続けなければいけないと思うし、キャストが入れ替わったとしても、後世に残すべき作品」と力を込め、「井上ひさしと蜷川幸雄が持てる限りの才能を出し合って作った芝居。何度見ても面白いと思いう。キャスト一同、もう一度すごい作品を作り上げられるよう、全力で稽古をしていくので、ぜひお見逃しなく」と語った。
埼玉公演は2021年8月25日〜29日、彩の国さいたま芸術劇場大ホール。東京公演は9月2日〜26日、Bunkamuraシアターコクーン。上演時間は3時間5分予定(途中休憩あり)
(協力:ニナガワカンパニー/企画制作:ホリプロ/特別協賛:Sky株式会社)。