三島有紀子監督は「感受性が溢れ出てしまっているというか、堰き止められない人」
――冬海役の富司純子さんの印象を教えてください。
去年、最初の緊急事態宣言が出たときに、家でずっと高倉健さんの映画を観ていたんです(笑)。その中に富司さんが出演されているものもあって、「素晴らしい女優さんだ」と思っていた矢先だったので、そんな伝説の方とご一緒させてもらえる、と思うと、体が震えました。実際にお会いしてみるとすごく優しい方でした。
そして、完成した映画を観たときには、富司さんがあまりに軽やかに冬海さんを演じられていたことに驚きました。リアリティがあって、たくましくて、軽やかなんですよね。そんな冬海さんが何かを変えようと考えるから、歩に連絡をしたんだろうな、って。
辛くてどうしようもない人が何かを変えようとするのではなくて、たくましく生きているけど「焼肉食べたい」「ハーゲンダッツ食べたい」と思ったときに、人生を変えようとするのが、この『よろこびのうた』らしいなと思いました。
――富司さんとほぼ2人きりの撮影だったと思いますが、そこで感じたことはありますか?
撮影中は隣にいるのが富司さんというより、冬海さんという印象が強かったです。だから僕もずっと歩としていられました。なので、変な緊張感とかはなかったです。
――三島監督の印象を教えてください。
現場では我先にというか、率先して傷つきに行くような方でした。三島さんが監督をしている大泉洋さんが主演の『ぶどうのなみだ』という作品があるんですけど、大泉さん演じる男がもがき苦しみながら一本のワインを誕生させる、という物語で、三島さんはそれを体現しているみたいというか。
訳10分程の映画を作るために、ここまで魂を削っているんだな、というのを間近で見ました。それぞれの登場人物の感情にもなりきっていて、あのときの三島さんの姿は忘れられないです。
感受性が豊かな方ってたくさんいると思うんですけど、ここまで感受性が溢れ出てしまっているというか、堰き止められない人なんだな、と。だから普通の人には見えないものとかも見えてしまっていて、裏では結構しんどい想いもしているんじゃないか、と勝手に心配にもなりました。
――それが演出にも反映されているのですか?
出会った瞬間から演出が始まっているような感じでした。この人の前では絶対に嘘がつけないから、もし僕が歩の状態でいられなかったらおしまいだ、と思って。カメラの回っていないときでも、(撮影期間中は)ずっと歩の状態でいました。