サムゲタン(参鶏湯)とは、内臓を取り去った若鶏丸ごと一羽の腹の中に、もち米、高麗人参、ニンニク、ナツメ、栗、松の実などを詰めて数時間煮たもの。参鶏湯の参は高麗人参のこと、鶏は鶏肉、湯はスープのこと

韓国人が好きな食べものの情緒を語るコラムの6回目は、サムゲタン(参鶏湯)を取り上げる。

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  • ソウルの人気定食店で出された3~4人分のテンジャンクッ。クッは汁のことで、このように汁気が多いものはチゲではなくテンジャンクッと呼ばれる
  • 焼肉店の〆に出てきたテンジャンチゲの汁と豆腐、付け合わせのキムチをごはんに混ぜて食べる。これが旨い!
  • ズッキーニ、豆腐、アサリが入ったテンジャンチゲ
  • オフィスビルの大衆食堂で出てきたテンジャンチゲ定食。手前中央がテンジャンチゲ
  • 軒先で干されるメジュ(味噌玉麹)。これは丸形だが、四角いものが一般的

家庭で作ることは稀で日常的な食べものとは言えないが、滋養強壮のごちそうとして韓国料理のなかでも抜きん出た存在感がある。

日本での認知度も高く、ソウル中心部のサムゲタン専門店に行けば、かなりの確率で日本からの旅行者を見かけたものだ。

サムゲタンは大げさに言えば、さまざまな仕掛けのある食べものなので、舌だけでなく、視覚・聴覚・嗅覚総動員で楽しめる。

本来は暑さ負け予防のための夏場の料理なのだが、身体をあたためる食べものなので、冬場でもありがたい。

サムゲタンには食前酒がある

サムゲタンの左の黄色味がかった液体が高麗人参酒

専門店でサムゲタンが運ばれてくる前に、意外なお楽しみがある。高麗人参を焼酎に漬けて寝かせた人参酒である。

店によってはとっくり1本3000ウォンくらい取る場合があるが、おちょこ1杯程度なら無料で出してくれる店もある。

ただし、頼まないと持ってきてくれなかったりするので、注文するとき「インサムジュ ジュシゲッソヨ?」(人参酒もらえますか?)と言うといいだろう。

サムゲタンは韓方(漢方)料理なので、高麗人参をはじめとする生薬がたっぷり入っている。

いきなり食べると身体がびっくりするかもしれないので、事前に人参酒を飲んで、「今から身体にいいものが入っていくよ」と知らせることで、万全の態勢になるだろう。

ひと口飲むと高麗人参の土のような香りがノドを通り、鼻を抜けていく。この匂いが苦手だと言う人もいるが、高麗人参が吸い取った大地のエネルギーをいただくと思って、キュッと飲み干そう。

サムゲタン登場!

サムゲタンが煮えたぎった状態で運ばれてくると、拍手を贈りたくなる

いよいよサムゲタンが運ばれてくる。グラグラと音を立てて煮立った状態だ。器ごと熱せられているので店員さんも手では持てない。ペンチの親分のような器具(やっとこ)で器の縁をつかんでテーブルに置かれる。

若鶏の腹を裂くと、中から宝物が飛び出してくる。

まずは鶏の骨をつまんでみる。よく煮込まれていて、噛むとほろほろと崩れる。

高麗人参は10センチくらいのものが1本入っている。参鶏湯の主役である。繊維質なので生だと筋張っているが、やわらかく煮込まれている。ホクホクである。

種の抜かれたナツメをかじると、ほのかに甘さが感じられる。ナツメにはホルモンを作る働きがあり、ストレス軽減効果がある。

松の実はもともと苦味があるが、煮込まれるとほとんど気にならない。高麗人参同様、身体をあたためる効果がある。

ニンニクや高麗人参の香りが移ったもち米も美味しい。鶏一羽ともち米を平らげると、おなかがいっぱいになる。

サムゲタンは日本の女性には量が多過ぎるかもしれない。そんなときは、パンゲタンと呼ばれるハーフサイズを頼むとよいだろう。パンゲタンのパンは「半」の韓国語読みだ。

副菜がアクセントに

サムゲタンに添えられた大根や白菜のキムチ

サムゲタンは塩を加えない状態で出てくるのがふつうだ。客が好みで卓上の塩をふる。

筆者は塩分に気をつけるべき年齢なので、塩はほんの少しだけ使い、副菜の塩分で味のバランスをとるようにしている。

白菜や大根のキムチのしょっぱさと酸味は、淡白なサムゲタンのスープのいいアクセントになる。

プッコチュと呼ばれる生の青唐辛子が添えられることも多い。たいてい辛くないものが選ばれる。手でつかみ味噌をつけてボリッとやる。唐辛子の清々しい香りと味噌の風味が舌の上に広がった後、サムゲタンのスープをすすると、口中が幸せで満たされる。

左下から時計回りに、味噌、生ニンニク、キムチ、カクトゥギ、ブッコチュ(青唐辛子)

庶民的な店だと、生のニンニクのスライスが添えられたりする。溶けてしまってわからないが、サムゲタンのスープにはすでにニンニクがたっぷり使われているので、ダメ押しである。

煮立っているスープに投入してもいいし、スープを口に運んでいる合間に、生のままガリッとやるのもいい。

最近は質のよいレトルト・サムゲタンも日本に流通している。熱々にしてネギや生薬を加えて食べると、風呂上がりのように身体がポカポカして、寒い冬でも安らかな眠りにつけるだろう。

サムゲタンの発祥は開城(現在の北朝鮮領)とも、中国とも言われている。写真は日本人対象の北朝鮮ツアー催行時、開城のレストランで出されたもの
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  • ピビムミョンはそのままでもじゅうぶん辛いのだが、釜山の専門店ではさらに辛く食べたい客ために激辛ソース(左上)を用意している
  • トッピングの野菜もろともソースで混ぜて食べるのが韓国流
  • 即席麺市場ではふつうのラーメンのシェアは農心、オットゥギ、三養、八道の順だが、ピビムミョンに限ると写真の八道がダントツ1位
  • 北朝鮮由来のピビム冷麺もピビムミョンの仲間と言える
  • 顔を真っ赤にして嬉々としてピビムミョンを食べる中高年。ここ数年、ピビムミョンの対角線上にある淡白な平壌冷麺(そば粉のスープ麺)が人気だが、辛くて濃厚なピビムミョンでないと食べた気がしないいう韓国人は多い

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鄭銀淑:ソウル在住の紀行作家&取材コーディネーター。味と情が両立している食堂や酒場を求め、韓国全土を歩いている。日本からの旅行者の飲み歩きに同行する「ソウル大衆酒場めぐり」を主宰。著書に『美味しい韓国 ほろ酔い紀行』『釜山の人情食堂』『韓国酒場紀行』『マッコルリの旅』など。株式会社キーワード所属。