老いて能力が衰える悲哀は、他者に求められた「結果」

撮影/藤田亜弓

──高杉さん演じるジョンはどんな人物ですか?

イエス・ノーがはっきりしている人ですね。コミュニケーション能力に長けていて、先輩のロバートとたくさん会話しています。

彼を小馬鹿にするような冗談も言えるし、わからないことはちゃんと「どういうことですか?」と素直に聞くことができる。根底には、ロバートに対するリスペクトが「あった」んですけどね。

──「あった」ということは、劇中で変化していくんでしょうか? 公演サイトによれば「時の流れとともに、いつしか立場も変わってきて……」とありますね。

そうですね。若手だった頃のジョンは、ロバートを小馬鹿にするのもリスペクトのうち……と思っていて。僕はめちゃくちゃ苦手なんですけど、「コイツうまいな」と思う後輩って先輩にかわいく生意気が言えますよね。人の懐にいつの間にか入って、仲良くなるのが本当に早い!

──高杉さんはどちらかというと、構えてしまうタイプ?

まさに! 目上の方には構えに構えてしまうタイプです(苦笑)。だからそうできるジョンが羨ましい。そういうリスペクトのグラデーションが、物語が進むにつれてだんだんと変わっていきます。

撮影/藤田亜弓

──先を想像するとヒリヒリしますね! 若手だったジョンは劇中で成長し、順調にキャリアを築き始めるんですよね。高杉さんと重なる部分もあるのでしょうか?

僕、一度もそう感じたことないんですよ。毎日が必死すぎて。「今日どうしよう」「明日も大変だ」で生きているので。よくわからないまま、日々過ごしています(苦笑)。

今回のように2人芝居に呼んでもらえて、自分のやりたい作品にめぐり合えた時は……基本的に「間に合った」と感じるんですよね。

──間に合った? どういうことですか?

この作品、僕じゃないキャストの可能性だってありましたよね。「それ出たかったなぁ」「この作品に出てよかった」「あの現場に入るの楽しみだな」と感じることの一つひとつって、タイミングです。

加えて自分が「どのくらい求められているか」ってことの積み重ねだと思う。そのめぐり合いって、なんだかんだ“運”によるところが大きい。その運をつかんで、めぐり合える人間でいられたことが「間に合った」なんです。

撮影/藤田亜弓

──「間に合った」背景にあるのは、高杉さんが俳優という職業に限らず、どれだけ他者の期待に応え信頼を積み重ねてきたか……のような気もします。一方で、そのように仕事をまっとうしてきたロバートに訪れるのは“老い”。この対比が本作の切ない根幹になってくるのかな、と感じるのですが。

そうですよね。僕、共感できるのはロバートなんですよ。彼が演劇を続けられなくなった理由は“老い”でしたけど、俳優を続けるうえでの障害ってまだたくさんあると思うんです。

たとえば、先ほど言ったような「求められる俳優でい続けられるかどうか」って意味では、全員がいつかあるかもしれない終わりに向かっていく。その中でロバートは終わりを迎えないためにがんばって、ずっと走り続けてきた人なんだろうな……と感じました。

──それでも終わりを迎えなければならないロバートの姿に、共感した?

その悔しさって、いつかジョンも味わうんだろうなって。『ライフ・イン・ザ・シアター』は、ジョンがロバートになる可能性のある話で、ロバートがジョンだったかもしれない物語のような気がします。……いまのところ、僕が勝手に描いている青写真ですけど。

撮影/藤田亜弓

──役者だけでなく、年齢を重ねる人ならどんな方にも刺さる普遍的な作品ですね。

そうかもしれませんね。でも老いて能力が衰えていく悲哀、自分の立ち位置を誰かと比べることによって生じる切なさがあること自体、一方では「幸せ」といえますよね。他者に求め続けられた結果だから。

そんな人生の機微を、ベテランと若手俳優の姿を通して絶妙なバランスで舞台上に立ち上げていきたいです。

公演情報

舞台『ライフ・イン・ザ・シアター』

東京公演:2022年3月3日(木)~3月13日(日) 新国立劇場 小劇場
大阪公演:2022年3月19日(土)~21日(月・祝) サンケイホールブリーゼ
広島公演:2022年3月24日(木) 広島 JMSアステールプラザ大ホール
福岡公演:2022年3月26日(土)・27日(日) 久留米シティプラザ ザ・グランドホール
札幌公演:2022年4月2日(土)・3日(日) 道新ホール
金沢公演:2022年4月10日(日) 北國新聞 赤羽ホール

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