道枝がカメラの外で見せた実直で誠実な姿

『今夜、世界からこの恋が消えても』 ©2022「今夜、世界からこの恋が消えても」製作委員会

このロケ地をもって初日の撮影は無事終了となったが、本当に印象的だったのはカメラが回っていないところでの道枝の姿だ。

透が、うずたかいソフトクリームのクリーム部分を落としてしまう場面。飛び散ったクリームが衣裳の靴についてしまっていて、カットがかかった途端、道枝はスタッフに「ごめんなさい、すみません!」。もちろんわざとではなく致し方ないことで、それなのに平謝りする道枝に逆に衣裳スタッフは恐縮することしきり。

また、神社での撮影を終えて撤収となり、鳥居を出る際の姿。誰に言われたわけでもないのに当たり前のように本殿に向き直って、深々と一礼していた道枝。あぁ、そういう人なのだなと思わされる。

実直な人で、まさに透なのだと感じさせられる。真織と観客が透に対してそうならずにいられないように、映画スタッフも道枝を好きにならずにいられない。

『今夜、世界からこの恋が消えても』 ©2022「今夜、世界からこの恋が消えても」製作委員会

そもそも透とは、どういう人物なのか。原作の言葉を借りれば、“無色透明”。必要以上に奮起することも失望することもなく、あまり積極的に他人と関わることもなく生きてきた人物だ。

しかし、映画では前田航基が演じる善良なクラスメイト・下川が嫌がらせを受けているとなれば立ち上がり、また真織が苦しんでいることを知れば、彼女のために尽力しようとする。正義感は強いのかもしれないが、そういうことでもないのだろう。ただ、目の前のことを見過ごさず、真摯に受け止める。誠実に向き合う。そここそが、道枝に重なる。