“勝つ”ために必要な“負け”がある
私たちはどうしても、自分や相手に対して「こういう人」とレッテルを貼りがちだ。そのほうがコミュニケーションが楽になる側面もある。しかし、二宮はそんな“逃げ”には走らない。それは仕事に対しても同じだ。
「楽しく仕事をしたいタイプなんですけど、映画にはどうしても“興業”がついてきますよね。僕たちの仕事にとっては無視できない要素。それでも、数字だけで見る勝負は気にしてません。たとえ負けたとしても、次回作に勝てる算段があるなら大丈夫。勝つための負けは必要ですし、一喜一憂はしないですね」
淡々と語る彼の物腰は常に柔らかいが、目の力は強い。劇中で演じた健のように、挫折から立ち直った経験はあるのか。そう問うと「あんまり、ないですね……。そこまで悩んだこともないし」と腕を組みながら語る。
「この仕事って、年齢に関係なく新しいものに触れられるから、新鮮なんです。作品ごとに必要な知識や技術は、有識者に教えていただけますし。歳を重ねていくと、新しいことにはなかなか出会えないから、そういった出会いが定期的にある環境はありがたいです。僕の場合は、折れる前に支えてもらえているのかもしれませんね」
折れる前に、支えてもらっている。決して一人で立っているのではない。多くの共演者やスタッフへの尊敬が感じられる姿勢だ。
「そもそも映画って、映画づくりが好きな人たちが結集して作られてますよね。『TANG タング』でも、僕は一人で健でいられてたわけじゃない。共演者である満島ひかりさんや奈緒さん、小手伸也さん……それぞれから見た“健”がいるからこそ、僕は健として生きられた。
目の前の仕事に熱量を持って臨める人たちがいるからこそ、お客さんにも楽しんで見てもらえる映画が作れるんだろうと思います」