かわいらしさから“ツンデレ感”まで味わえる井上芳雄のジャーヴィス
ケアード版の根幹をなすのは、ピアノ、ギター、チェロのみで演奏されるポール・ゴードン(『ナイツ・テイル』『ジェーン・エア』)の音楽と、本で埋め尽くされたジャーヴィスの書斎とたくさんのトランクから成るデイヴィッド・ファーリーの舞台美術。どちらも重厚でありながら優しく、何より温かい。
そんな音楽・セットと、同質の温かみと品を持った俳優でなければこの舞台にはそぐわない。稀有なそれらを井上と坂本と同様に備えた上で、上白石は彼女らしい明るさで作品を塗り替えていく。
内に秘めた意志を抑えた演技から浮かび上がらせていた印象のある坂本ジルーシャとは対照的に、喜怒哀楽を素直に表現する上白石ジルーシャを観ていたら、“おきゃん”という少々古風でおどけた語感の言葉が頭に浮かんだ。
それは彼女が物語の時代の中に生きていたためであり、また作品に若干のコミカル要素を加えていたためでもあるだろう。
おきゃんな上白石ジルーシャに引っ張られるかのように、井上ジャーヴィスも今まで以上にコミカルに見えたのは気のせいだろうか。
相手役が実年齢のほぼ同じ坂本から20歳近く離れた上白石になることで、包容力が増して感じられるかと思いきや、どちらかというとジルーシャの掌の上で転がされているように見えるから面白い。とはいえもちろん、その魅力は全く変わらず。
温かみと品、喋るように歌える歌唱力、大人の余裕と少年のようなかわいらしさ、そして“ツンデレ感”の全てが味わえるジャーヴィスはやはり、間違いなく井上最大の当たり役のひとつだ。